ドリア三味、おかわり。

小さな洋食屋さんで、ドリアを注文する。
昼食どきでも、夕食どきでもない。
お客さんが自分しかいない。
そんなとき、厨房の方から「チーン」と聞こえたら。
名指しである。
彼はファミレスが嫌いだった。
厨房から店員さんが出てくるたびに、自分の注文した料理なんじゃないか、と見てしまう。
極度に腹が減っているわけでもないのに。
その行為はなんだか子供じみてる。
しかし、気付くとやってしまっている。
軽い自己嫌悪。
レンジの音に気付かないふりをしていると、くたびれたエプロンをした店主がドリアを持って、近づいてきた。
「あんた、チーン聞こえなんだか。」
「え?」
「あんた、チーン聞こえたら、それはあんたのドリアに決まってる。」
「なら、食べる準備をしとくもんだ。」
いやな想像をしてしまった。
そんな不躾な店主はいないだろうが。
そうこうしていると、くたびれたエプロンをした店主がドリアを持って、近づいてきた。
彼はあわててスプーンを手に取り、それでテーブルの木目をなぞり始めた。
店主はその行動を一瞥もせず、何事もないようにドリアをテーブルに置いて、愛想良く彼といくらかの言葉を交わしたあと、立ち去った。
軽い自己嫌悪。

何かが起こりそうだよストーリー プロローグ

ヒロユキが12歳の頃、そのいとこのヨシミは、明朝体のハネ部分に欲情していたっけ。
サトシはそう思った。
ヨシミの同級生のカズヒロは「レミオロメン」のことをヨーロッパのある演劇の名前だと思っていたし、カズヒロと苗字が同じなタカヤは、手の甲に生えた一本の太い毛を大切にしていた。
街中で母親と手をつないでいる男児の人数を数えるのが趣味だったトモミはタカヤのことを知らなかったが、何かあったときのために、いつも古新聞を用意していたし、その弟のツバサはこの間、モロッコに行く夢をみた。
そんなツバサと生命線の長さが一緒だったハムドが、畑に吊るされたCDに疑問を持っていた頃、学校の一緒だったシンジは誰も傷つけない失笑が、ナミは家電量販店で店員さんを呼び止めることが得意だった。
ナミの呼び止めた店員さんから、執拗にサイクロン掃除機を勧められたハルゾウは「なんだか、やっと時代が俺に追いついた」と言っていたが、その将棋友達のゲンジは、基本的に無傷だった。
ゲンジの小母のオサヨは気の強い女性で、マンガ喫茶で自分が読みたいものを全て確保していたけど、それを愛おしく見ていたヘイハチは9巻が空くのを待っていた。
この二人はキルドレさながら不死になっちゃって。
オサヨなんてゲンジがどこまで耐えられるかを試してみたけど、結果的には人間のそれと変わりがなかった。
その時代、ショウジは野球の審判をしていて、一回くらいは打者が一塁ベースを踏む瞬間に「ストライク」と叫んでみたいと思っていたが、ピッチャーをやってたトモキは、投球中も家でセットしたビデオがうまく作動しているか、気になってしょうがなかった。
そんな僕らが、今度合コンをすることになりました。
よろしくお願いします。

何かが起こりそうだよストーリー
何かが起こりそうだよストーリー リターンズ
何かが起こりそうだよストーリー プレリュード

知恵

多くの代謝機能や器官のはたらきが歳を経るにつれ、衰えゆくなか、「永続して発達する器官、知恵袋」はかなり特異な存在である。
その発達は女性に顕著で、高齢になると、外見からもその発達が見て取れるほどになる。
昨今、老女の変死が相次いだ。
調査を行ったところ、肥大した知恵袋に牛乳パックやハンガーが詰まっていたことが判明した。

希釈

明日は、大学受験の結果通知が来る日だ。
本命で、ここじゃなきゃ大学に行く意味がないと思っている。
だけど、テストの出来はいまいちだった。
正直、合否は微妙なところだ。
通知が来ても、とても自分で開封して結果を見ることなんてできなそうだ。
親に結果を見てもらおうか。
でもそれじゃほぼ自分で見たのと同じだ。
親が僕を呼ぶ、その声のトーンを考えるだけで、僕は封を開けるときのような、緊迫した気持ちになるだろう。
じゃあ、親に結果を見てもらって、合格なら明後日の朝食にミルクコーヒーを、不合格ならミルクティーを入れてもらう約束をするのはどうだろう。
明後日の朝のタイミングで分かるんだけど、少なくとも席に着くまでは、テーブルの上の飲み物がどちらかなんてわからないし、飲んでみて、もしミルクティーだったとしても、まだ「ミルクコーヒーと間違えたんだな」と思うことで少しは心を刺激せずに済むかもしれない。
・・・だめだ、そんなことをしたら明日はミルク何々のことで、頭が一杯になってしまう・・・。
それに何かの理由でカルーア・ミルク を出されてしまったら、とか考えるだけでも眠れない。
結局、こんなことでは僕の不安は希釈されないようだ。
どうしよう・・・。
そして当日。
「ということで母さん。結果通知が来たら、この小ビンに入れて、相模湾のほうに向かってくれない?」

差はいつだって、5分。その2

一応、昨日からの流れですんで。
=====
スタッフ「すいません!!。本日のゲストの松崎しげるさんなんですが・・・」
現場監督「あぁ、モノマネ王座の、本物ゲストさんの?」
スタッフ「ご予定が入っていたので、呼ぶことができませんでした!!」
現場監督「え・・・、どうすんの?。本番始まってんぞ!?」
スタッフ「すいません!!」
現場監督「番組始まってからのそんな報告だなんて・・・、高純度の驚きだよ・・・」
スタッフ「どうしましょう?」
現場監督「しかたない。君は、このビルで今日仕事のある芸能人を探すんだ。時間に問題がないならすぐに来てもらうこと!!」
現場監督「君は、司会の人に無線をつないで!!」



司会「はーい、次のかたはご存知、モノマネ芸人のモンテスキュー笹島さんでーす!!」
笹島「はい、どうもー」
司会「今日は白組、劣勢ですからねー」
笹島「今のところ、そんな感じですね。ここで、挽回しますよ」
司会「今日のモノマネの見どころは?」
笹島「今回はお笑いなしです。直球勝負ですよ」
司会「そうですかー、格好は男風でも、質で勝負ですね!!」
笹島「え・・・?」
司会「辛口批評が、モノマネではどのようになるのでしょうか!?」
笹島「は、はぁ・・・」
司会「スカルノ大統領第3夫人になりきっていただきましょう!!」
笹島「・・・???」
司会「それでは笹島さん、お願いします」
笹島「・・・(あぁ・・・)」
司会「デヴィ夫人のモノマネで「愛のメモリー」!!」
笹島「・・・(何でかわからんけど、本物ゲストがデヴィ夫人になってるんや・・・)」



笹島「・・・(別に、愛のメモリーでなくても、ええやないか・・・)」

差はいつだって、5分。その1

スタッフ「すいません!!。本日のゲストの松崎しげるさんなんですが・・・」
現場監督「あぁ、モノマネ王座の、本物ゲストさんの?」
スタッフ「手違いで、島崎俊郎さんを呼んでしまいました!!」
現場監督「え・・・、どうすんの?。本番5分前だぞ!?」
スタッフ「すいません!!」
現場監督「そんなことが5分前に発覚だなんて、ほぼミラクルだよ・・・」
スタッフ「どうしましょう?」
現場監督「しかたない。楽屋にいこう」



現場監督「すいません、ちょっと失礼します」
モノマネ芸人「はい?。あぁ、監督さん。今日はお願いします」
現場監督「こんなタイミングで申し訳ないのですが、松崎しげるさんのことでちょっと・・・」
モノマネ芸人「あぁ、ご本人が来られるんですよね。愛のメモリーも歌ってくださるとか」
現場監督「・・・急ですが・・・、今回はアダモちゃんのモノマネでお願いできませんか?」
モノマネ芸人「・・・!?」
現場監督「都合により、本日の本物ゲストが島崎俊郎さんになってしまったのです」
モノマネ芸人「え・・・、ちょ、ちょっと待ってください」
モノマネ芸人「僕が愛のメモリーをモノマネするからこそ、本物ゲスト松崎しげるさんを呼んでいただけるはずだったんですよね?」
現場監督「・・・・・・その通りなんですが・・・」
モノマネ芸人「それが、本物ゲストが島崎俊郎さんになったから、アダモちゃんをモノマネしろって・・・」
モノマネ芸人「オーダーメイドのスーツを頼んだらサイズが小さかった。それについてテーラーに言及したら「あなたが小さくなってください」だって・・・」
モノマネ芸人「そんな、アメリカンジョークみたいな・・・」
現場監督「すいません・・・」
モノマネ芸人「モノマネっていうのは、ホンモノさんと、それに似ているニセモノさんだけで、成り立っているんですよ。そこにベツモノさんも来ちゃったら・・・。」
現場監督「すいません・・・、だからこそ、お願いします・・・」
モノマネ芸人「・・・仕方がないですね。さいわいにも、僕のレパートリーにアダモちゃんが入っていて、本当によかった」
現場監督「助かります」
モノマネ芸人「それに、準備にさほど時間がかからない。今回だけですよ・・・。でもまぁ、5分前でも、わかってよかったですよ。」



モノマネ芸人「それにしても、しげるがアダモちゃんって・・・。愛のメモリーの「あ」が、アダモちゃんの「あ」と同じくらいですよ。かろうじてですよ・・・。」

レゾンデートル

簡単なジグソーパズルだ。
無地だけど、ピースが30もない。
道徳の時間。
生徒ひとりひとりに1ピース渡し、自分の名前を書かせる。
それを、生徒自身が教壇に置いてあるパズルの土台にはめていく。
社会性や個人の存在意義を問い、人間性を高める狙いがあるのだ。
一通り教壇の人だかりがなくなると、僕は出来上がったパズルを生徒達に掲げる。
そして、ピースが1つでも足りないとパズルは完成しない、みたいなことを言うつもりだった。
出来上がったパズルを見た生徒達の表情に違和感をおぼえた僕は、掲げていた土台を教壇に戻し、眺める。
1ピースだけ、無地のままのものがある。
生徒の名前が書かれていない。
どうやらこれが、違和感の原因のようだ。
「誰だ、自分の名前を書いていないのは」
手を上げるものはいない。
仕方がないのでひとりずつ見ていってみる。
どうやら、田中の名前だけないようだ。
「田中、何で書いていないんだ」
田中は、誰にも影響を与えないようにして生きている。
そんな印象を与える男だ。
しゃべらないわけでもなく、目立たないわけでもない。
いたって普通に人と接する。
クラスの誰かと冗談を言いあうこともあるようだ。
だが、彼と1日でも会わない日があったなら、その顔も思い出せないのではないか。
そんな男だ。
そして、それを意識して生活している。
「田中、何で何も書いていないんだ」
田中は席を立ち、教壇にやってきた。
そして、置いてあるパズルを見ている。
「ん。どうしたんだ」
「一応、書いたんですけど?」
田中はパズルに手を伸ばし、無地のピースだけをうまく外す。
そして僕に、ピースの埋まっていない土台部分を示した。
そこには田中、と書いてあった。
生徒達はそれを見て、感心したり笑ったりした。

あけて、しまうのだろう・番外

早朝の無人島。名もない川の中州で首のないサユリの死体が発見される。
死体に近づくこともためらわれるような猟奇的殺人!!。
この難事件に名探偵こんなんが立ち向かう!!。
「遺体の首を切断する。それは、遺体の身元を知られないようにするためだったのです!!。」
「そう、実は死んでいたのは、サユリではなくてノボルだったのです!!」
一同、驚きが隠せない。
サユリが男だったのか、ノボルが女だったのか・・・。
みんなは死体をもう一度見に行きました。
===============
「そう、実は死んでいたのは、サユリではなくてニホンザルだったのです!!」
一同、驚きが隠せない。
毛並みを変えると、ニホンザルもずいぶん人間っぽくなるな・・・。
みんなは死体をもう一度見に行きました。
===============
「そう、実は死んでいたのは、サユリではなくて平和を愛する心だったのです!!」
一同、驚きが隠せない。
そうだった。
僕らの瞳は、昔はもっと輝きにあふれていたはずだ・・・。
みんなはマイムマイムを踊るため、枯れ枝を集め始めました。

罵倒差・2

昨日からの続き。
【あらすじ】
レズビアンな二人と、そのうちの一方を愛した男性。
レズ友を取られそうになったひろ子は、ゆうじを激しくなじるのだった。
7942「今日はクリスマスだから、話し合うのはいいとしても、ケンカはやめようよ。」
ひろ子「そんなこと言ったって、彼はあたしのかおりを奪おうとしているのよ!!。」
ゆうじ「好きになったんだ、仕方ないじゃないか。」
ひろ子「この、メス豚が!!。」
7942、200712/24の「男にメス豚はよくないんじゃないか」という話をひろ子に聞かせる。
ひろ子「そ、そうね、論点がずれたわ。」
ゆうじ「でも、かおりも僕のことを好いてくれているよ。」
ひろ子「おめーがたぶらかしたんだろ!!。この、どろぼうネコ!!。」
7942、200712/24の「どろぼうネコってのも、ないよね。」という話をひろ子に聞かせる。
ひろ子「そ、そうね、高ぶりすぎたわ。」
ひろ子「ちょっと7942、じゃあ、どうやってこの男を罵倒すればいいのよ!?。」
7942「昨日、それについて考えたんだ。箇条書きにしてみるよ。」
◆「この、オスカマキリが」
:オスカマキリがイメージさせる悲しい運命が、相手の心をブレイク!!。
でも、悪いヤツっていう感じじゃないね。
◆「そろそろ、はやにえな!!」
:もずのはやにえをこういうふうに使うのは、僕が初めてかも。
つまるところ、死ねってことだね。
でも、言葉として間違ってるかも。
◆「この、恋のピッキング犯が!!」
:昔、この曲名で作詞したことがあるのを思いだしたんだ。
歌はモーニング娘。を考えてたから、だいぶ昔だ。
7942「でも、昨日はクリスマスイブだし、今日はクリスマスだ。はやにえのこととか考えているのも、悲しいじゃない?。そんなことしてるんだったら、今日「クルシミマス」っていうワードが、どれほどのブログ、日記で使われているかを調べたりした方が楽しいんじゃないかな。」
ひろ子「・・・そうね。今日くらいは。」
ひろ子「私も、かおりの好きになった男がはやにえてしまうのは、忍びないわ。」
7942「そうだね。じゃあ、検索してみよう。」
ゆうじ「あんま、なかったよ。」

紙とペン

「はいもしもし、nimbusです。」
「え、はい。どなたですか?。」
「えぇ、えぇ、はい。で、ご用件は?。」
「あ、はい。紙と、・・・ペン。はい。ちょっと待ってください。」
・・・
「はい。用意しましたよ。それで・・・?。」
「え、ちょ、ちょっと待ってください。なんですか、2分47秒って?。」
「え?。僕が紙とペンを用意するのに要した時間、ですか?。」
「え、えぇ。でも、それが何か?。」
「え?。あ・・・っと。何でそんなに怒っているんですか?。」
「えぇ、えぇ、。何・・・か、あったときのことを考えると・・・はい。遅い、と。」
「ちょっとねぇ。あなたいきなり何なんですか。」
「全然意味のないことでしょう、ねぇ。」
「そもそもですねぇ、断りもなしに、何をタイム計っているんですか。」
「え?。えぇ。タイムのことを、えー、知らせたら。意味が無い、と。」
「あぁまぁそうかもしれませんけどねぇ。「何かあったとき」のことですもんねぇ。」
「でもですねぇ、なんだかんだ言ったって、いきなりタイムはないでしょう。タイムは。」
「あのですねぇ、僕だからいいですけどねぇ。気にする人は気にするんですよ、タイム。」
「ねぇ。あなたは親切心からかもしれないけど、結構迷惑している人もいるんじゃないですか?。」
「え?。えぇ。そりゃ僕だってその気になれば、えーと、2分、でしたっけ?。あぁ、47秒。」
「2分半くらい、朝飯前ですよ。」
「いや、僕のことはいいんで。とにかく、いきなり電話でタイムのことをとやかく言われると、迷惑でしょう?。」
「え?、えぇ。いや、いやいや。あなたは特異だからですよ。ユニーク。え?、いや、ユニークですって。」
「え?。あ、いや。もういいですから。もう、タイムのこともいいんで。」
「えぇ。もういいですから、切りますから。」
「でもね。ちょっと誤解されているようですからね?。」
「あなたが思っているほど、僕は紙とペンを用意できない人間じゃありませんからね。」