降心の雪 その2

昨日からのつづき
【あらすじ】
福島へ墓参りに行く。
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禁呪を唱えたかのような雪の峠をやり過ごし、福島最寄りの高速道路出口に到達した。
知人の「こっちはぜんぜん降ってないよ」という信用ならない回答も真実だったようで、晴れてすらいる。
というのが到着15分くらいだった。
瞬く間に福島市に雪が降りはじめ、なじみ薄い私たちはそのアグレシッブさに帰りの心配だ。
しかし住んでいる方はそうでもなく、すいすいと車を走らせる。
その後ろにつきながら、僕らは置いていかれないように必死だった。
後ろについていくと言っていた坊主の車も、いつの間にか僕らを追い越し、地元の力を思い知らされたのである。
目的地である墓地はもう真っ白で、先日来たときに震災で崩れていた墓石も雪に隠れて見えない。
この墓地には干支の石像が並んでいる。
あまりに雪が積もっていて、どこが墓かわからない。
自宅の墓を探すのにはそれを目印にするくらいだった。
以前書いたが、ここでの納骨はまるで畑に肥料を撒くかのように、骨をそのまま墓の中に撒く。
撒いてるこちらが心配になるような納骨だ。
しかも墓をひらく手はずが整っておらず、スタッフの人を呼ぶ前にスコップを発見していた僕がそれをやることになってしまった。
雪の中の墓荒らしといった容貌で、絵本になりそうである。
スタッフに来ていただいたころには墓オープンは済み、雪もひどいのでお礼とともに帰っていただく。
そして坊主のお経が始まった。
雪の日のお経はつらい。
手は雪と墓石の冷たさでかじかみ、靴下はぬれる。
坊主は草履でこちらが目を背けたくなるような薄着だったが、よく見ると草履には謎のクリアプラスチックのカバーが付いており、やはり雪国の適応性はすごいなと関心せざるを得ない。
お経が終わると、もうとにかくこの納骨を早く済ませようと親戚一同一丸となり、墓クローズの担当も自然と決まった。
もちろん僕は雪の中の墓守といった容貌で、やはり絵本になりそうである。

降心の雪 その1

今年は別の用事もあり、福島の墓参りに行ってきた。
東京から車で5時間ほどあれば着くが、福島の知人は不穏なことを口にする。
「道が凍結することはないと思うけど」
それほど凍結の恐ろしさを考えていなかった私たちは一気に戦慄し、慌ててスタッドレスタイヤの車をレンタルすることにしたのである。
朝4時に起床し、5時に出発。
この時間は魑魅魍魎しか起きていないとはいえ、魑魅魍魎も轢いてはならない。
魑魅魍魎を轢いたら魑魅魑魅魍魎魍魎になるから。
人はもちろんのことである。
私見だが、早朝に歩いている人は、少し油断している。
主に道路の横断に、油断している。
安全運転で道路を進む。
特に問題もなく高速道路を進む。
案外サービスエリアの食事コーナーが開店していなかったこと。
途中で買った牛タン串が以上なうまさを見せたこと。
事件と言えばこのくらいだった。
しかし、である。
ある峠にさしかかった辺り。
少し雲行きが怪しくなってきたかなと思ったとたんに雪が降り出す。
最初は雪を喜んでいたが、それも真横に雪が降るようになってくると、徐々に不安になっていく。
「道が凍結することはないと思うけど」
速度規制がなされ、渋滞の先頭を除雪車が並んで走行している姿を確認したとき、凍結よりもひどいんじゃね?とみな思ったのである。

死出の旅路

イノシシについては全然わかんない。
ただ、キバがすごいこと。
近所にイノシシの肉を提供するラーメン屋があること。
野生のイノシシにはダニがいっぱいついているらしいこと。
そしてファイナルファンタジー5で「ワイルドボー」という名称で登場していたこと。
このくらいだ。
この中でも感慨深いのがダニについて。
ある小説、エッセイで、狩られたイノシシから大量のダニが逃げ出すシーンが描かれていたことがある。
それは異様感、あるいは死出の旅を暗喩しているとも言える。
しかし何よりも、大量のダニという点だ。
獣に付くダニというのは、布団や衣類に付くような、目に見えないくらい小さいダニではない。
「木の実?」と思えるくらい大きく、なんかテカってる。
それが大量に、イノシシの死骸から出てくるのである。
「ママ、死んだイノシシから大量の木の実が出てきたよ!!」
聞きようによっては胃の内容物のことを話しているようで、気持ち悪い。
「ママ、死んだイノシシから大量の赤い水が出てきたよ!!」
血というものを子供にどう教えればいいのか、よくわかりません。
「ママ、死んだイノシシからお経が聞こえてきたよ!!」
あーなんかわからないけど、ヌシとかだよたぶん。

ガンダムの対戦のやつの件

PS3でガンダムの対戦ゲームが出たのでやってみたのだが、何か難しい。
逃げても追ってくるんだ。
対戦相手が。
何が申し訳ないかって、あのゲームはランダムでパートナーが決まるものだから、負けると名も知らぬパートナーに申し訳ない。
しかし僕の使うキャラクターは足が遅いらしく、助けにいく頃にはやられている。
オンライン対戦の前に練習することにした。
僕の使っているキャラクターはガンダムへビーアームズというやつで、何となく焼きたてのパンを想像させる名前のガンダムだ。
弾数が多い点が気に入っているが、その分動きがのろいらしく、相手に近寄られると抜け出せなくなってしまう。
まずはこいつでゲームをクリアしよう。
ところが、なんだかCPU戦も難しい。
弾がいいように避けられてしまう。
このシリーズのゲームは初めてではないのに、どうも負けてしまうことが多い。
練習の前に説明書を読むことにした。

スパイにありがちな行動ベスト10

スパイにありがちな行動ベスト10
手抜きベター、手抜きベスト。
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スパイ初心者にありがちな、スパイとばれてしまう行動が特集されている「スパイ」月刊誌を、諸都合により入手しました。
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「月刊ルパン 11月号」
思わずやって、捜査員をどん引きさせる!!
スパイ初心者行動ベスト10!!
10位
爪やすりで爪を整えるついでに、指紋を消そうとしてしまう。
9位
異性と長く続かない。
8位
「大陰は朝市に隠れる」と、ことあるごとに言ってしまう。
7位
テープレコーダーから煙が出てしまう。
6位
周りで話している人の会話すべてがなんからの自分への暗号と考えてしまう。
5位
目立たないように行動することで、目立ってしまう。
4位
汚れないように座席カバーをつけることで、超ハイテクカーの脱出機能を損ねてしまう。
3位
いつも銃口を向けられているような気分になってしまう。
2位
ガラスを音もなく切断することのできる機材を、アマゾンで注文してしまう。
1位
尾行されていると勘違いして道を遠回りし、帰りがいつも遅くなってしまう。
これが初心者スパイです。

男に聞け。

先日も触れたのだが、ミッションインポッシブルの話。
その何作目かで、こんなセリフがあった。
「そこにいる男に、火を貸せと言え」
要は暗号のキーであり、その男はそのキーを口にする者が伝えるべき相手であると判断できるというわけである。
しかし日本人の僕からしてみると、知らない人に「火を貸せ」と言うのはあまりにスパイスパイしていると言わざるを得ない。
どうしても特殊だ、知らない人に火を貸せというのは。
そして一方で、ぎりぎり一般の人との間にも起きてしまう可能性もありうる内容だ。
よって、暗号のキーに「火を貸せ」は、ちょっと心配である。
スパイスパイせず、かつ日常ではあまり口にしないキー。
それが最良なわけだが、そんなものあるのだろうか。
例えば「今夜の天気を聞け」と言うのを考えてみると、「日常ではあまり口にしない」点にひっかかる。
一方で「現在のハワイ時間を聞く」だと、ちょっとスパイスパイだ。
「好きな色を聞く」はどうだろう。
「ベンチの一番右端に座っている男に、好きな色を聞け」となるか。
ちょっとすいません。好きな色とかってあります?。
僕だったら、最高レベルの警戒をするね。

遠足の賞味期限

ある種の小学生にとって、遠足とはいかに目的地に早く到着することか、である。
それは適度な休息を我慢させ、結構な坂道を駆け下りさせる。
一番に到着することに魅力がないわけではないが、それにしても急ぐ。
地球防衛の何らかに携わっているくらいに急ぐ。
そんなことを考えながら、彼らの背中を追っていたことを思い出した。

アビイ・ロード

ある年配の知人から、こんなことを聞いた。
「村に設置された初めての信号機を見に、遠足が催されたことがある」
なかなか想像しにくい。
何せ今では、路上に連立しているのが見える信号機である。
それに、今の遠足は何かしら教育上の目的を持ったカリキュラムであろうから、なおさら信号機が目的の遠足はよくわからない。
しかし、彼女は嬉々としてそのことを語るのである。
よく考えてみると、確かに「信号機を見るための遠足」は一種のステータスであると言えそうだ。
例えば今で「東京スカイツリーを見るための遠足」を考えるとき、それは単に「すごいものを見に行く」であり、信号機の「今では普通だが、昔はすごかったものを見に行く」よりも、今では味わいが少ない。
そして東京スカイツリーは「普通になる」ときが今後、起きないと思われる。
それが普通になったとき、世界は普通じゃないだろうから。
そうとらえると、彼女が自慢げに信号機の遠足を話すことはひどく自然なのである。

単眼の交差点

僕の住んでいるところでは、一度だけ夜に計画停電になった。
停電前までに到達できる最寄り駅から、自宅に向かって歩いた30分程度のことをよく覚えている。
かろうじて灯りはついているが人の気配がないホーム。
線路沿いには物珍しそうにあたりを見回し、子供たちがはしゃいでいる。
すれ違う人は多いのに、やけに静かだった印象がある。
夕暮れも過ぎ辺りが暗くなると、夜というものがいかに暗いのかがよくわかった。
どこから仕入れたのか。
妙に細長いランプを食卓に置いて、静かな夜を過ごす。
まるで物音を立てると襲われてしまうような緊張感がある。
ちょうど夜の森は、こんな感じだ。
夕食はカレーだった。
あの日、どれほどの家庭がカレーだったろうか。
灯油ストーブがあれば、暖をとるだけでなくカレーも作れる。
それゆえ、停電のときのカレーほど心強いメニューもなかっただろうから。
ラジオの乾いた音、内容の分からないipadの映画に飽きたのだろうか。
家族の一人が「外の様子を見てくる」と言い出した。
これは、確実に「川の様子を見に行ったまま戻ってこない」フラグである。
彼は酔っている。
正直嫌だったが、僕も興味があるふりをして付き添う。
街は真っ暗だ。
信号機もついていない交差点を、あんがいなスピードで自動車が横切る。
ぶらぶらと歩く彼の後ろにつきながら、僕はランプの灯りのことを思い出していた。
どこぞの民族宗教的な話。
祈祷の儀式を行う際、灯りは電灯などの「ゆらめかないもの」ではなく、たいまつやアルコールランプ、ろうそくなどの「ゆらめくもの」を使用する。
あのゆらめきをずっと見ていると、ある種の陶酔状態になるのだという。
それが結果、見神体験をもたらすのだ、と書かれた本を見たことがあるような気がした。
あの日、どれほどの人がそんな体験をしたのだろう。
近所のコンビニには、店は閉店しているにも関わらず、たくさんの人が集まっていた。

deleteにこだわれなくて。

消しゴムほど、存亡の危機が迫っている文房具はないのではないだろうか。
というのも、今では消しゴムのかわりにdeleteキーがあるから。
というのは気持ち悪いにしても現状、紙とペンは人類には必須である。
どんなに立ち上がりが早くても、キーを打つ速さが速記を越えていたとしても、あるタイミングでは情報の保存に紙とペンに勝るものはない。
パズーはひときれのパン、ナイフとランプを鞄に詰め込んでいた。
あれは「トム・ソーヤーの冒険」のトム・ソーヤーが持っていた宝物をもっと端的に表したものであると言えそうで、要は必要最低限。
しかし最低限とはいえ、あの鞄に紙とペンは入っていたはずだ。
ラピュタの映画ラストで、口にしてはいけないので「言うとだめ→バルス」とメモっていたパズーの姿が印象的である。
あのシーンでケータイとかポメラを鞄から出している暇はない。
いつ何時ヒロインが「バルス」であるとか「ばばあ、留守」とか言ってしまうかもしれないのである。
何よりも優先して「バルス」を形とし、「これを口にするな」と釘をさす必要があるわけだ。
それにしても思うのは、パズーが携帯電話を持っていなくてよかったということだ。
「空から女の子が!!」
シータが上にいるときにパシャリ。
下っていくときにもパシャリである。
結果、シータはどんどん下る。
「40秒で支度しな!!」
朝、ケータイが見つからないことは周知の事実であり、パズーは完全に出遅れる。
「目がー、目がー!!」
僕が思うに、ラピュタを見たことある人にとって「目がー、目がー!!」と言っている人は、ちょっとファンタジー過ぎている。
パズーは当事者ではあるが、やはり「うわー、目がー目がー言ってる人がいる!!」と写真を撮ってしまうだろう。
このように、消しゴムはどうしても消え行く文房具の筆頭となってしまう。
だからdeleteキーの素材を消しゴムにすればアメリカンジョークっぽくてこれも気持ち悪いね、の今回。