なぜか台北 その33

【あらすじ】
台湾旅行。
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望まずしてたどり着いた、台北から2時間くらい離れたところにある都市「新竹」。
しかしそれまでの車窓からの風景はなかなかよく、この場合の「よい」とは日本では見られないような建物があったりだとか大学があったりだとか、田んぼがあったりだとか。
何となく琴線に触れるものということである。
若者とおばさんと日差しでごったがえす新竹駅。
料理中のようだ。
料理中の場所は放っておき、なんか「のどか」くさかった台北方面近隣の駅「北竹」に向かう事にした。
さきほどは特急的な「自強」というチケットを買ってしまったためにこんなところに来てしまった。
券売機でちゃんとローカルを選び、少々雑な改札をくぐる。
新竹駅はホームが3つほどあり、それぞれに電車が止まっている。
当たり前のようにローカル線がどれかは分からないが、自強の電車だけは見覚えがある。
しかしそれを除いたとしても2線ほど。
どちらか分からない上に時刻表は「特急のみ」「ローカル線のみ」で分かれているらしく、まんまと特急側を鵜呑みにした僕は20分ほどホームアローンになってしまう。
な、ホームアローン、な?。
ホームで、あれだから、な?。
わかるよ、な?。
今回も特に面白いところがないため念を押してみたのだが、どうだろう。
効果はあっただろうか。
仕方がないので不機嫌そうな駅員をつかまえ、ローカル線を教えてもらう。
なんてことはない。
先ほどの改札から入ったところ、その正面がそれだった。
突然、聞き慣れた音楽が流れてきた。
なぜかは分からないが、電車到着時の音楽が日本でよく聞くもの。
こんな異国でも使われているというのは、何かサピエンスの到着本能に訴えるリズム、音域なのだろうか。
しかしこの1日ほど懐かしい音に対し、情緒みたいなものは感じなかった。
なにせ今回も、面白いところがないと言い切っちゃっているくらいですから。
ともかく、何もなさそうな町「北竹」へ。

なぜか台北 その32

【あらすじ】
台湾旅行。
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もう自強の列車に乗って2時間は経過しただろうか。
謎の車内放送が流れ、乗客の数人が慌ただしく支度を始めた。
停車駅「新竹」が近いのだ。
やっとこさ下車できるとうれしくなったのも束の間、車内で精算した切符が本当に使用できるのか。
改札を通過できるのかが妙に不安になってきた。
車掌さんを疑っている訳ではないが、例えば改札でまたひと問答。
いわば2時間弱乗り過ごしてきた僕にとって、そのやりとりは致命に等しい。
と、ここでブログ的にはファンタジーが起こってもらいたいところではあるのだが、緊張の改札は何事もなく進み、どうにか外に出る事ができた。
ただ、暑い。
「新竹」は台北駅から自強の列車で2時間程度のところにある都市で、少なくとも11時の駅前は大混雑である。
何か名所があるのかも知れない。
若者だけでなく、おばさんも多い。
目的地の樹林から2時間。
しかしその町並みは「樹林から想像される自然、田んぼ」とは違い、それを望んでいた僕はいまいち乗り気にはなれない。
名所があるのだとしても、ここからさらに単独で行動したら、もう戻れないだろう。
新竹にも、日本にも。
僕は電車の中で、新竹の前の駅が質素で線路に沿う道は田んぼで囲まれていた事を見ていた。
この新竹でただうろつくよりは、前駅へ戻り田んぼの方向へ歩いてみた方がいいのではないだろうか。
そう考えた僕は、せっかく意図せず新竹についたというのにひとつの何かを見る事なく、券売機に並んだのである。
券売機には、今回の体験で特急らしいことが判明した「自強」にならんでいくつかボタンがあり、そのひとつには「local」と添えられている。
ははーん、なるほどね。

なぜか台北 その31

【あらすじ】
台湾旅行。
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自強の列車に乗って1時間30分くらいか。
当初の目的地だった「樹林駅」はだいたい1時間20分前くらいに通過したのを最後、その姿を見せていない。
まあいい。
どうせ目的地は「なんとなく親しみのある、自然あるっぽい」くらいで決めた事なのだ。
確か、通過したときに見た「樹林」はいたって普通の都市部で、結果的にはあまり面白くなさそう。
通過した方がよかったくらいなのだ。
なんて思っていたら、自強最大の事件が起きた。
車掌さんが切符を切りにきたのだ。
これは本格的な「特急電車」。
1時間半、ぶっちぎりで運行しているのだから距離もある。
新幹線にホーム入場券で乗ってしまったようなもののかも知れない。
にわかに挙動がおかしくなってくる僕を察し、隣の人が心配そうだ。
しかし仕方がない。
怖そうな車掌に切符を渡し、ジャパニーズであることを告げたのち足らないだろうから払うよと片言。
車掌は何か僕に話すが英語ではなく、何を言っているのかよくわからない。
ごめん分からん。
そんなやり取りが数秒続いた後、どうも次の駅までのやつを買うかどうかを聞いている事がわかった。
もちろんそうする。
次がどこかはわからないが。
車掌は半分あきれてはいたが「シエシエ」と僕に修正したらしい切符を渡してくれる。
およそ600円の請求。
出発地点の松山駅から「次の駅」、新竹は「自強」で600円だったのだろうか。
「樹林」までの切符を買ったときの数倍である。
これが妥当なのかどうかは今でも分からないが、とにかく車掌さんは怖かった。
というか、駅員さんは基本的に無愛想で怖かった。
どうにか無賃乗車的なくだりをやり終え、心なしか隣の人も安心した表情になった。
そして僕も最大の試練を乗り越えたことで、何か人間的に成長できた。
次は、自強に乗るとき気をつけよう。

なぜか台北 その30

【あらすじ】
台湾旅行。
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♪いくつの街を 越えてゆくのだろう
アニメ、ドラゴンクエストで流れていた徳永英明の名曲である。
一向に停車の意志を示さぬ自強の列車にて思い出した。
もうほんと、停まらない。
これは粒子加速の実験かなにか?。
とにかく駅という駅を無視していき、列車は新しい世界へ行こうとでもしているようだ。
これは戻るのにも大変だねとため息をついたあたりで、車内販売の人がやってきた。
車内販売。
これ、特急的な電車なんじゃね。
と気づくにしても、もうどうする事もできず、車内販売の人も歩行速度プラス列車の速度の速さで、次へ行ってしまった。
外を眺めていると、面白いものが目に入ってきた。
草に覆われた小高い丘の中、小さい家がいくつも立っている。
小さいとはいえ、それは日本の道通神社にあるようなものではなく、ちょうど人が一人、入れるくらい。
家というよりは屋根のついた壁といった感じで、もちろん住むためのものではなさそう。
おそらくお墓なのだろう。
鮮やかに塗られた屋根が太陽に照らされ、草原の中で美しく光る。
失礼だが何だか不思議な感じだったので、行ってみたい気になる。
しかし列車は停まらない。
♪明日へと続く この道は
明日へと続くは困るのだ、明日へと続くのは。

なぜか台北 その29

【あらすじ】
台湾旅行。
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自強というものに属するらしい我が乗車列車は、下剤を飲んだかのように整然と進み、停車するそぶりすら見せぬ。
そもそも駅の間隔も広いらしく、やっと次の駅が見えたと思ったらそのときはもちろん減速しておらず、もはや停車は夢のまた夢といった面持ち。い
不安もどこかへ置き去りになってしまい、僕は世界の車窓の窓枠にひじをついて、ただ風景を眺めるだけの備品になってしまった。
備品なりに外を観察していると、色々分かってきた。
駅周辺は結構栄えているようなところでも、その駅間は広大な田んぼが広がり、川が堂々と流れる。
緑色が支配する。
そんなパターンだ。
駅近くになると、ぱっと風景は建物の灰色が占める。
駅前には大きな看板があり、ある駅のそれはウォシュレットに向かっておじいさんが手を合わせている絵。
どうしたのだろうか。
そんなターンを数回繰り返していく。
全然停まらない。
駅間の大半を占める緑ゾーンでは貯水池だろうか。
大小の水たまりが転々とあり、たいがいそこにはサギのような白くて細い鳥がひょいひょい歩いている。
大きな河川の両岸には広場があり、草野球をしている。
隣の人が徐にあくびをする。
あくびにも外国語はない。
停車しない以外は、のどかな土曜日である。

なぜか台北 その28

【あらすじ】
台湾旅行。
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とにかく「自強」というものらしい列車は長い地下運行を抜け、順調に「樹林」を通過した。
よくわからないが、とにかく目的地だった「樹林駅」を通過した、こいつは。
どういうことなのだろう。
2012年6月9日、午前8時4分。
自強電車先頭車両内に、主に僕に戦慄が走る。
落ち着いて整理してみる。
まず、僕は「樹林」までのキップしかかっていないから、だめである。
切符に書かれた「43元」では、この乗り物から降車できないばかりか、不正に乗車している状態だろう。
そして、この列車はどこで停まるのか、分からない。
事実、この時点ではまだ一駅にも停車していないのだ、こいつは。
しかもそんなテンパっている僕に、更なる衝撃が走る。
若い女性が僕の前に座っていたおじさんに何か話しかける。
するとおじさんはしぶしぶ。
少なくとも僕にはしぶしぶに見えたのだが、席をどいたのである。
この列車、座席指定の可能性浮上の瞬間である。
僕は焦りつつも前傾姿勢を保ち、誰かが声をかけてきたら満面の笑顔とともに颯爽と立ち去る準備を行った。
笑顔にも外国語はないだろう。
重要である。
そしてコトの整理。
えーとまず、樹林には停まらなかったぞ・・・。
とはいえ、整理する事はもうあまりないことに気づいた。
停まらぬのなら、もう仕方ないのである。
次に停まった駅で清算をすればよい。
清算を台湾でどうやるかは全く分からないが、清算という行為のことは知っている。
僕は不倫専門だったから、お手の物だ。
ごめんここ自暴自棄。
ただ、今考えた割には「不倫専門」というのは面白い。
「不倫専門で、結果何なんだ」
僕が今何か答えるとしたら、「不倫専門の熱海」とかになるだろうか。
とにかく僕はもうすっかり覚悟を決め、座席指定疑惑は残れど平然と座り続ける事にした。
そうして、僕はもうすっかりまわりと同じいろになってしまふのでした。

なぜか台北 その27

【あらすじ】
台湾旅行。
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「樹林行き」らしい列車はほどなくしてホームに侵入してきた。
日本のそれと比べて、多少ごつごつ感、ロボット感のする車体である。
入ってみると2つ一組の座席が進行方向を向くように、両側2列に配置。
ちょうど新幹線のような座席配置である。
極力最後尾に並んでいた僕は、前の人がどういう挙動をするかを観察する。
彼らは特に座席のことを調べるふうでもなく、各個自由に座っているようだ。
座席指定がないことを確認した僕は、世界の車窓を意識した訳ではないが、窓側に座る。
樹林までの短い間ではあるが、風景を見たろうかと思った訳だ。
前の座席には足置き場のような付属品がついている。
松山駅ではそれほど乗客はなく、自強の電車内は閑散としている。
前の座席で、おじさんが新聞を読んでいる。
斜め横では学生が友達と何か喋っている。
「チュカさんは、遠い親戚の結婚式に向かうそうです。おみやげを見せてくれました」
「学生のヤムさんは、休日を利用して友達と旅行に行くそうです。楽しそうですね」
世界の車窓風に言えば、こうなるだろうか。
「チュカさんは、この列車で心臓発作を起こした地縛霊です。新聞も読み飽きて久しいですね」
「学生のヤムさんは、休日を利用して耳の穴に何個フリスクが入るか試すそうです。SHARPENS YOU UPですね」
電車は10分程度松山駅ホームに停車したのち、それほど乗車を促す事なく唐突に発進し始める。
さてさて、目的地の「樹林」はどんなところかしら。

なぜか台北 その26

【あらすじ】
台湾旅行。
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松山駅で行く先を決め、心落ち着けたのまではよかったのだが、結局切符の買い方が分からない。
字が読めないというよりは、なんかボタンの数が多いのだ、日本のより。
確かに、それらはカテゴリ分けされているらしく、さらに上部のカテゴリを選択すると次のカテゴリ部分がひかり、ここを選んでねという優れたIFを示してくれる。
しかし困るのが「自強」というボタンが象徴的なカテゴリのところで、ここが何を示すものなのかが分からない。
何なんだ「自強」。
僕は小声で「なんなんだじきょう」と何度も口にしたがもちろんそれで何かがわかるわけでもなく、ただこのカテゴリで一番読みやすいのがこれだという理由のみで、自強の樹林行き切符を購入してみた。
切符は日本のそれと同じような大きさで、内容もしかり、のよう。
ともあれ切符を手に入れた僕は電車乗り場に向かい、また困る事になる。
どこのホームに「樹林」行きの電車は来るのだろうか。
松山駅には4つほどのホームがあり、その見てくれはきれい。
しかし松山駅初心者の僕としては4つもホームはあってほしくない。
行き先看板を見ても矢印などの分かりやすい表記は見つからず、僕はホームを行き来するメッセンジャーにようになってしまっていた。
もちろん、ホーム間の誰に対してもメッセージを告げ合うことのない、白紙のメッセンジャーである。
彼は、思いあまって駅員さんに切符を見せる。
白紙に「あっちのホームだよ」と初めて文字が入る。

なぜか台北 その25

【あらすじ】
台湾旅行。
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松山駅にて、切符を買うのが分からない。
混んでいないのが幸いなのだが、それでも長い間、券売機の前で固まるのもいやだ。
あまり観光客、ジャパニーズ風を出すのもいやだ。
できたばかりらしい松山駅のぴかぴかな壁面に、狼狽した僕の顔が映る。
腰に手を当てるふりをして、脇を乾かす。
一旦券売機から離れ、まずどんな路線があり、どういう駅が点在するのかを確認する事にした。
ここ、松山の次は台北らしい。
どうやら一駅分くらい、2時間弱かけて歩いていたようだ。
なんとなくそれが目についたので、ここは松山駅から台北方向に行くことにする。
その先をみると「板橋駅」。
今の状況ではもう声すらかけたくなるくらいの親しみのある漢字もあったりする。
しかしわざわざ台湾の板橋に行く事もなかろう。
そこからまた少し進むと「樹林」という駅があるようだ。
これは何だか良さそうだ。
僕は生き物系が好きなので、何となく自然の豊かそうな、田んぼのありそうな。
そんなこの駅に親しみを覚えた。
「樹林」に行ってみる事にする。
田んぼがあれば、水生昆虫を探せるかも知れない。
ただ、樹林は路線図を見る限り、数駅程度しか離れていない。
我ながら保守的、冒険心がないなと思うが、一方でパスポート期限が切迫している、らしいこともある。
電車で3ヶ月と3日かかる場所へは行けないだろうが、とにかくすぐ戻って来れること。
そして自然を優先した形なのだ。
もし、電車で3ヶ月と3日かかる場所なのだというのなら、僕はここにパスポートを置いていくね。

なぜか台北 その24

【あらすじ】
台湾旅行。
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朝の台北付近を歩いている。
子供の手を引く紳士の標識を見たり、体中央に向かう放射状のオレンジ色が目立つ蝶を目で追ったりする。
消防局という建物がある。
消防署だろうか。
まだまだ歩く。
暑い。
バイクの二段階右折らしき標識を見つける。
小学校を見つける。
つまり、あまり日本と差異がない。
ならばつまらないのかというとそうでもなく、新しめのものに押されるようにいる建物や妙に達筆な漢字の看板。
単に初めての場所ということもあり、案外楽しい。
街路樹や民家で見かける植物はやや南国性を帯びており、ここでの南国性とは以下の通り。
・つるっぽいものが絡まっている
・葉がしゃっとしていて、細い
・幹からねじれている
「台北道場」というでかい建物のそばで、ついに駅を見つけた。
松山駅らしい。
とにかく駅でよくわからない場所へ行ってみようという魂胆だった僕の、本日の目的のひとつである。
それがかなった。
なるほど、台湾で駅は「立へんに占」と書くようで、迷ったらこの字を目指せばいい。
駅は最近できたのか、きれいでとんがっている。
さて駅を見つけたからには何か食べようかとうろついてみる。
ここにも夜市があるようだが、今は朝。
昨夜の余韻のせいもあるのだろうか。
早朝とは思えぬねばっこい空気が路地に流れる。
もちろん店はひとつもなく、目立つ大きいゴミは落ちていないが、見えない何かが例のねばっこさを出しているような雰囲気。
食べ物が無い。
その夜市の入り口付近にはお寺らしき絢爛な建物があり、地元の人がお勤めしている。
食べ物が無い。
いやあるかも知れないが、それは供物だろう。
駅から少し離れた路地を沿う形でさらに進んでみると、また学校があり、その対岸に何件か飲食店を見つけた。
しかし店員がいない。
あるいはけだるそう。
あるいは店員ではなさそうなおじさんがけだるそう。
以上の点により、なんとなく注文しづらい。
空腹を胸に、駅へ。