川の流れのように

もう、いくつかのデパートでは、かぶと虫が店頭に並んでいるようだ。
虫かごに元気のない鬱カップルが収まっている。
あるケースで、ひっくり返ってもがいてるオスがいた。
気になったのでうまくケースをとんとんし、レスキューする。
そんなことをやっていたら、思い出した。
かぶと虫は死んでしまうとき、いつもひっくり返っているのである。
それは、別にひっくり返ってしまったから死んでしまう、ということではない理由だった気が。
確か、かぶと虫(まぁ、虫)は弱ってしまうと足が内側に曲がってしまうようで、そのため重心が高くなってしまい、そのままころん、となってしまう。
そんなだったか。
でも、とにかくずっとひっくり返っていたら、結局死んでしまうのかも・・・。
ソースが思い出せないが、とりあえず今回は、これは関係ない。
僕のレスキューしたかぶと虫は、なぜだかケース内でひっくり返ってしまったのであるが、問題は彼が自力で自分の体を引き起こすことができなかった点である。
彼らが生きていくうえで、ひっくり返ったときは自分の力で体を引き起こす。
これは、超重要だと僕は思うのだ。
だのに、ケースのかぶと虫は、ひっくり返ってわしわししていた。
僕が彼に「なぜ自分で起き上がれないのだ」と尋ねたら、彼はこういうだろう。
「ケースの中に、足がかりになるものがないのだ。」
そう、ケース内は虫ゼリー(えさ)くらいで、あとはおがくず。
何もないのだった。
彼としては、自然界ではとにかくわしわしさえしていれば、何かの出っ張りや近くのモノに足がひっかかり、それをきっかけに起き上がれるはず、と考えているのだ。
そして、おそらくそんなことは虫発生時からやられてきていたことで、それ虫にとって当たり前の行動だったのだ。
しかし、このケースには、それが通用しない。
出っ張りやモノがない、ただひらけたおがくず平線だ。
ケース内のかぶと虫を見て思う。
でこぼこ道を歩み続けた彼らにとって、平坦な道が目の前にあるのは、必ずしも吉報とはならないのである。

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