まんが感

悲鳴で、飛び起きる。
トイレへ向かうと、便器付近で悲鳴発生源の母親が「も、も・・・」とか言って狼狽している。
床はびしょ濡れだ。
その光景で僕は全てを把握した。
まずはOKシーンから。
「わっ。トイレ元の水道管が壊れたの?。だから、水道の「元栓」を締めてくれってことね?」
そんでもってNG。
「えーっ!!。モモがトイレに流されちゃったの!?」
モモとは、うちの猫でして、まぁ一般的な猫ですので、ちょっとトイレでは流せない大きさだと思います。
僕の朝の脳は、NGでした。
・・・助からない。
モモは助からない。
しかし、おそらくどこかで詰まっているだろう亡骸でもいいから、もう一度抱いてあげたい。
まぁそんな風に、全てを把握した。
家族のものの話によると、僕は「元栓はどこだ!!」と一度だけ叫び、はだしのまま外に飛び出、元栓を締めていたそうだ。
そして「何があったの?」と聞く現状を知らない者に対し、僕は「モモがトイレに流された・・・」と弱々しく話したという。
※「そのもの あおきころもをまといて こんじきののに おりたつべし」
※元栓を締めるその姿は、今でも語り継がれている。
元栓を締める。
しばらくすると、その地面から伝わってくる冷たさを感じるくらい、僕は冷静になってきた。
それは「ちょっと、猫は洋式トイレには流れないんじゃないか」というのがまだわからないくらいの冷静さだ。
このとき、僕はふたつの奇跡を呪っていた。
ひとつは猫(モモ)がトイレに入ったということ。
もうひとつは、母親がトイレのレバー(おそらく大)をひねってしまったこと。
・・・モモよ、何故お前はトイレに入ってしまったのか・・・。
水面に映る自分が面白かったのだろうか。
・・・そう、お前は変なヤツだったよ。
そんなお前だって、今までトイレに入ったことなんてなかった。
それがなぜ入り、しかもそのタイミングで流れてしまうのか・・・。
母親も母親だ。
何か誤ったのだろうが、何でそんなときに流してしまうのか・・・。
奇跡が、ふたつ同時に起きるなんて・・・。
僕が、今回の騒動が、単にトイレの水道管が外れたことによる件であることを理解するのには、もう少し時間がかかった。
そして、それを知ったときの安堵っぷりといったら、なかった。びしょ濡れは、大変だったけど。
窓を挟んで家の中からはだしの僕を見たモモは、猫なりに恐怖していたようだ。
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ひとつおりこうになった。
「朝の脳は、時として「まんが感」である」と。
本件、冷静に考えれば、「まんが」の出来事だ。
しかし、朝、飛び起きた僕は、水道管を抑える母親が、元栓と言おうとしている光景より「まんが」を現実として把握してしまった。
昔、飼えなくなったからといってトイレに流されてしまったワニが下水道で成長、がおーとなる映画を見たことがあった。
今回の騒動にリンクしなくもない。
だが、何より朝だった。
朝のまんが感に、僕はやられてしまったのだ。
この騒動時、我が家付近を歩いていた人が「モモがトイレに流された・・・」という弱々しい声を聞いていたとすると、その人にとっても我が家は「モモという何かがトイレに流されてしまった」という、「まんが感」満載の、ファンタジーハウスとなる。
「まんが感」の拡大だ。

「まんが感」への2件のフィードバック

  1. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    猫好きのオレはその「まんが感」に騙されて
    「ハラハラ感」でした。
    年寄りを騙さないでください。寿命が縮まりますったら。

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    これを書いてるだけでも思い出してしまい、ちょっと涙ぐみそうになりました。
    ちなみにモモは今、ホットカーペットの上で寝ています。

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