ボンビコール

宿を後にした僕は、夜行バスに再び乗るまでの10時間ばかりをどうするか考え、まだ行ってない観光地があったので、そこでうろつくことにした。
そこも人が多い。
しかも、直線的な道の両脇に甘味処が多数あるため、さながらアメ玉を目指すアリの大行進。
僕は羽を得、蝶(蛾も可)のようにひとっ飛びしたいと思った。
でも、僕の背中には相変わらず羽はない。
それに、羽を持っていても飛べない蛾もいるしな。
変態するのも気がひけるな。
ということで思うのをやめることにした。
僕は観光客の一員として、そのフェロモンに圧倒されながらも、それを頼りにみんなが行きたがっている場所に向かった。
しかし彼らは散り散りと色んな甘味処へと消えていく。
僕がたどったのは、昔の残り香みたいなものだったのである。
歴史ある場所で残り香なんて言葉を思いつき、意識できたことはうれしかった。
・・・
それにしてもまぁ、面白くはないので自転車を借りることにする。
見てくれは「ママチャリ更年期」といった趣の自転車を借り駆る。
(ちなみにカラカルというカッチョイイねこ科がいるが、このときは圧倒的に更年期的な駆りであった)
制限2時間のうち、道に迷っていたのは1時間30分だった。
知らん街で1時間30分のサイクリング。
これをどうとらえるかは人による。
この時間を2行で終えることをどう思うかは人による。
とにかく自身も更年期的になってしまったため、僕も先人に習い甘味処へ向かうことになるのだ。
(10/14五臓七腑にしみこむピースたち)
何件目かの店を出たとき、もうずいぶんと時間が経っていたことに気付く。
今度は夕焼けが目にしみこむ。
旅も終わりだ。
夜行バスの中、僕は眠たくなるまで、あの残り香を五感で思い出すことだろう。

はなきんの儀

夕食を済ませ、その片付けに来たおばはんから周辺のことを聞きだす。
ほう、近くの神社で何か行事があるらしい。
カメラを持って行くことにした。
その行事は「月」への感謝だか何だかをするらしい。
その日はバッチリ曇りで、感謝の対象は今のところ拝めない。
別に屋台などが出ているわけではないので、境内をうろつく。
すると、にわかに中庭が騒がしくなってきた。
はかま姿のおじさんが闇からぞろぞろ現れて、「いかにも」って感じの楽器を奏ではじめた。
そして、月への感謝を、立ったり座ったり、団子を供えたり舞したりで表現した。
要するに、僕はちゃんと見てなかった。
夜の神社と言うだけで十分楽しかったんである。
しかし、儀式も佳境というところで雲がさっと流れ、満月が煌々と夜空に輝いたとき、正直こいつらやるな、と思った。
夜の神社で満月。
知り合い全員にメールを飛ばしたい心境である。
それにしても、来た日がちょうどその行事にあたっていてよかった。
ついてるなぁ。
行事も終わり、儀式に使ったすすきを持って帰るとご利益があるとかいう放送が流れはじめたのでそこを後にする。
ふと、神社を出たところにある看板に目が行った。
「○○の儀、本日開催。」
そしてその隣には
「××の儀、何月何日予定。」
一週間後である。
宿で聞いてみると、集客のためか、かなり頻繁に行事があるらしい。
そういえば、看板には「第二回 ○○の儀」とあった。
に、二回目かぁ・・・。

嘘はうけません。

とにかく人である。
どこに行っても観光客ばかりである。
わくわく動物ランド調だと霊長目ヒト科ホモサピエンスだらけ。
ムスカ調だとごみだらけ。
もう、寺の敷地内なのか歌舞伎町なのか分からなくなる。
ちなみにテラの敷地内とすると、僕ら仲良しみな兄弟となる。
こういう思いをする機会は多い。
もちろん自分もその中の一因を担っていることにも気付いているけど、こんなに多くなくても・・・、とか考えてしまう。
このとき人間は、時間の差はあれど、
周りの人が自分と同じような質量を持ち、自分と同じような人間関係を持ち、自分と同じように物事を考えていることを忘れる。
こう聞くと、当たり前のことだから忘れたりしないと思うかもしれないが、誰でも忘れるときがあるのは確実だろう。
そして、その時間が長いような人は、この街はけっこう住みやすいはずだ。
君は、そんなことは忘れないというような、綺麗な目をしているね。
どう?。
これから僕らの体重について語り合わない?。
宿泊先でかわいい従業員の人がいたら使ってみようと思ったが、
来たのはおばちゃんと外国の方だった。
確実にダメな感じ2×2である。

生ける仏は義務教育

お寺にでも行くしかない。
みのもんたも寝ているかもしれない時間にバスは到着し、僕は雨の路上にやんわり放り出された。
確か、近くにたくさん仏像がある寺があるはず。
それを思い出し、歩いてった。
早朝。
寒い。
雨。
だいぶ「うきうき、寺気分」にはなれないが、着いた。
!!!!
なんということであろうか!!。
いくつもの立像がある中、歯が抜けたように空間が。
そこには
「現在修復中」だの、
「なんとか博物館の要請につき、出陣中」だのの立て札が。
「修復中」の君。
欠席扱いなんで。
「出陣中」の君。
「出陣」って言うんだ・・・。
立て札よりも花瓶か何か置いた方がいいのにね。
近くにいた中学生に言おうと思ったけど、彼は像たちに向かって手を合わせていたので、僕は彼に手を合わせてみた。
君、今「仏像の数+1」になったで・・・。

雨音のシーン

雨は強くなる一方だ・・・。
バスが高速に乗ってから1時間ほどたつ。
さっきまで騒がしかった車内は、嘘のように静まり返っている。
僕の隣は、夜行バス初というギター持ちだった。
とりあえず僕は日本人と韓国人のクォーターで、我が家でも「冬のソナタ」が大人気であったことを伝えた。
どうでもよい上に嘘の情報を与えられた彼が喋らなくなってずいぶんたつ。
どうでもいいんだけど、せっかく気の利いた(?)嘘をついたんだから、彼にも嘘をついてもらいたいものだ。
「なーんてね、寝てないよ?ん!!」
とか言ってもらいたい。
「じゃーん!!。ギターじゃなくて新巻鮭でした?!!」
とか言ってもらいたい。
「実は、地球人じゃないんですヨ?!!」
とか言って、住民票を見せてもらいたい。
「実はこのバス、パリ行きでした?!!」
とか言って、もらいたかったのに・・・。
明日はだいぶ早く到着する。

彷徨のしおり

「もう少し早く家を出ればよかったな」
そう思ったが、どうにもならない。
出かけることにした。
夜行バスはほぼ満席だったけど、どうにかひとつ、席を予約できた。
一人旅だ。
で、まんまと遅刻しそうな僕は電車の中で色々なパターンの謝りかたを考えていた。
1時間30ほどかかる道のりを、ほぼ1時間で進まなければ間に合わない。
でも、電車なのでいくら吠えようと、太ももの下に手を突っ込んで暖をとろうと、どうにもならない。
なので、夜行バスにギリギリ間に合ったときの謝りかたを考えていたのだ。
息切れは必須だとして、他にはどうするか・・・。
・・・3世だな。
何かの3世という感じにしよう。
あっ、ここの駅はすごく人が乗り降りするんだ。
よし、みんな急いで降りたり乗ったりするんだ!!。
・・・
よし、差し引きちょっと乗客少なくなったから電車も軽くなり、スピードが出るはずだ。
行け、行くんだ電車。
走った後のオイルは、おいしいに違いないぞ?。
ん?。
電車だからオイルはいらないのか?。
よく分からないけど、石炭かオイルかって言ったらオイルだよな。
あ、謝りかた考えなくちゃ。
とりあえず息切れはデフォとして、他にはどうするか・・・。
・・・大阪弁っぽいのだな。
大阪弁っぽい言葉使いでフレンドリィな感じにするんだ。
いける。
これでいけるぞ・・・。
バス乗り場には何故か、一番乗りで着きました・・・。

これから余る、ひとつのパーツ

?「君には良心というものがないのかね?。」
容疑者「いえ、あります。」
?「あるというのなら、あんな残忍な事件を起こすはずないだろ。」
容疑者「でも、僕ほど良心を大切にしている人間は、そうはいないと思います。」
?「うそつけ。どっかに置いてきたんだろう?。」
容疑者「ちょっと違いますね。今はちゃんとした場所に取っといてあります。」
?「???」
容疑者「僕の良心は取り外しがきくんです。しかも育てることができる。」
?「そだてる?。」
容疑者「この間はビフテキを食べさせましたし、日光浴も欠かしたことはありません。」
?「お前、あれか?。良心と両親をかけて、俺と勘違いコントでもするつもりか?。」
容疑者「もちろん「良心」ですよ。もう、空を飛べるほどに成長しました。」
?「・・・」
容疑者「ですから、いざと言うときはちゃんと僕の心に戻ってきてくれるはずだったんですが・・・。」
?「育てすぎて鳥かごから出られなくなった、とでも?。」
容疑者「・・・」
?「至急、コイツの自宅に行って、鳥かごを開けてくれ。何も入っていなくても、だ。」
容疑者「えっ。今の話、信じるんですか?。」
?「もっとも、そいつが戻る場所はもうないかもしれないけどな。」

ヒッチコックじゃない「鳥」

今日で、自分の部屋から出なくなって1週間になる。
人の顔を見なくなって6日。
親の顔を見なくなって3日。
きっかけは些細なことだった。
一日、風邪で休んだだけだったんだ。
でも、次の日の朝から体調が良くなくて、ずるずると休むようになってしまった。
一日3回扉を開くだけの日々。
2回開けば目の前には食事が。
一回はトイレ。
休みだす前の生活を知っている分、こんな生活に耐えられないことを体が感じている。
でも、気楽に聞こえるかもしれないけど「気分が乗らない」のだ。
これじゃダメだな・・・。
こんな僕でも、最近ちょっとハマッているものがある。
「懐メロ」だ。
最近の歌はついていけなくて。
懐メロと言ってもけっこう昔のものだけどね。
昨日は渡辺真知子の「かもめが翔んだ日」を繰り返し聞いてた。
窓開けっ放しでね。
「ハーバーライトが 朝日に変わる
 その時 一羽のかもめが翔んだ」
という出だしの歌だ。
次の日の夜、急に下の階が騒がしくなり、母親に呼ばれた。
4回目のドアを開けて降りていくと、制服の警官がふたり、居間で立っていた。
普通の人でさえ制服の警官をみると少しは挙動不審になる。
僕なんかはなおさらだ。
もちろん、こういうきっかけがないと呼ぶことができなかった母親もそう。
しかし、警官たちはだいぶくだけた感じで話し始めた。
「いやー。事件などではないんです。ただ、妙な話が複数寄せられたので。」
「と言うと?。」
「おたくの2階の窓から、たくさんの鳥が飛んでいくのを見たというものです。」
「はぁ・・・。」
「しかも、それがかもめだっていうんですよ。おかしなものです。」
「ちなみに、何か鳥は飼っていますか?。」
「いいえ。別にレース鳩とかに興味もありませんし。」
「複数の目撃があったんですが、見たところ問題もないですしね。お騒がせしました。」
警官たちは頭をかきながら帰っていった。
部屋に戻った僕は、窓から両手を出してみた。
なまぬるい空気がなでる。
壁を隔てた二つの空間。
隣り合っていても、今は想像もできないくらい相容れなくて、異質の世界同士なのかもしれない。
僕は部屋から飛び立つたくさんのかもめを想像した。
苦笑して、部屋を振り返ると、レンタル屋のふくろが投げ捨てられていた。
延滞している。
さて、返しに行かなくちゃな・・・。

敵はこれからつくるのさ。

俺の左腕は、アフリカ象50頭分の力を得た。
俺の右腕は、刃こぼれ一つしない切れ味を得た。
左足はしなやかだが鋼のように黒光りしている。
右足は荒地もOKなキャタピラだ。
体はミサイルも跳ね返す丈夫さだし、頭は何か考えるとき
「かりかり」って音がする。
これなら悪を倒すことができる。
まぁ、そこいらに悪がたくさんいるわけではないが。
「敵は後から作りましょう」だっけか?。
なんかの本にそんなことが書いてあった。
そのとおり。
順番はちょっと変かもしれないけど、
先手必勝。
強くなったから敵を作るのは、結構自然なことだ。
そんな俺はここのところ追われている。
俺の風貌が願ってもない「敵っぽさ」らしい。
・・・
敵を作るということは、誰かの敵になるというところのものだなぁ。
そんなことを考えたら、気持ち頭のシーク音が小さくなった。

ウロボロス

私を出現させたということは、もうアナタ、確実に死ぬことを決意しました。
会社帰りの僕にその男はそう言った。
別にこの男は間違っていない。
そう、僕は今日中に命を絶とうと思っていたのだ。
「何ですか、いきなり。」
そんなことは誰に言ってないので、僕は警戒した。
死にゆく人に夢を与える精霊みたいなものです。
さっきも言いましたが、私が出たということは、アナタもう後戻りはできません。
なので、私はアナタに夢を与えることができるわけです。
「ふーん。誰も知らないはずなので、まぁそうなんでしょうねぇ。」
ちなみに、夢は3個までOKです。
「そうだな・・・。昔から空を飛んでみたいと思っていたんだけど・・・。」
「うん。死ぬ前に、空を飛んでみたい。」
「僕は好きな人がいるんだけど、その人が僕を好きになるってしても僕は死んじゃうわけだしなぁ・・・。」
「うん。どうせ死ぬなら、好きな人に殺されたい。もちろん本人には自覚なし、迷惑もなしで。」
「それに、わがままかも知れないけど、天国には行きたいよな・・・。」
「よし。死んだら天国に行きたい。」
「で、いいかな?。」
・・・いいでしょう。
そして僕は電波少年みたいな感じで車に乗せられ、知らないビルの屋上に連れてかされた。
下を覗き込むと、好きな人が竹やりのそばに立ってた。
はい、これ。
彼は僕に安産のお守りをくれた。
・・・なるほどね。ここが唯一無二の場所か・・・。
・・・それにしてもこれって、生まれる側にも効くのかな?・・・。