夕食

僕は怖い話が好きである。
もちろん実際では遠慮派だが、話である分には好きだ。
そして同様に不思議な話も好きである。
こんな話を探し出した。
小学生のときに転校してきた某君。
彼は不思議な少年で、会っていない同級生の夕ご飯を当てるのだそうだ。
そしてより不思議なことに、当時の彼を覚えている人はこの話をしている人以外、いないという点。
不思議である。
ただ、ここではこの話をぐっと不思議にしている「彼はそもそもいたのだろうか」というところではなく、「夕ご飯をあてる」ところに注目してみたい。
例えば朝、出会ったときの「おはよう」の「は」のところで、同級生の歯にあおのりがついていたとする。
これは「夕ご飯の指摘」的中をするうえで大きなヒントになるだろう。
不思議話に水を差すつもりではないが、何らかの夕ご飯ヒントを、人というのは無意識のうちに与えているものなのである。
その学校がお弁当制度だったとして、ある同級生が宅配ピザの何ピースかを持ってきていたら、まず昨晩の夕ご飯は宅配ピザだろう。
舌なめずりばかりしているやつは、十中八九うな丼。
もちろん黄色い舌苔のやつはカレーだったろうし、青いのはブルーハワイだ。
くしゃみをしたときにベビースターみたいな長さの麺が出てきたら夕ご飯はラーメンであるし、もうナポリタンのときは何も書かなくていい。
そして何もヒントがないやつ。
それは家族全員ダイエット中なのか、お茶漬けかである。
このように、どうにか特別な能力がなくても夕ご飯を言い当てることができそうである。
同級生の母親の素行調査を充実させる方法もあるし。
しかし我々はもう一つ、彼自身のことについて考えなければならない。
「彼は自分の家の夕ご飯が何かを前もって知ってしまっていたのだろうか」
夕ご飯の楽しみが半減する彼。
夕ご飯のときに、いまいち元気のない息子が気になる母。
二人の雰囲気がよくわからない父。
この家庭内に「母さん、今日のごはん何!?」という言葉が発せられる事はなかっただろうが、もしあったとしても、それはそれで泣ける話になる。
僕は、泣ける話はそんなに好きじゃない。

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