一通あいさつ

ジョギングコースから少し外れた場所が登山道の入り口で。
まぁ登山とは言っても10分くらいで頂上付近に到達できる、そういった山でして。
ある時期の夕暮れですと、その山の頂上から町を見下ろしたとき、山の影が町を覆い、それは壮大な風景なのです。
その日、私は田んぼを散歩するついでに、山へ向かいました。
そこは涼しいですし、何より久しぶりでした。
登山道の入り口に着きますと、もうそこからひんやりとした空気が流れていることに気づきました。
自転車から降り、舗装されていない山道を歩いていきます。
そこは先ほども言いましたように、夏にも関わらず涼しく、快適です。
ここの空気を吸ったあとの吐息が暖かいことに、ちゃんと空気が自分の中のものと置換されたことがうれしくもあり、こことは相容れないものを排出する自分が残念だ、とか、そんなことを考えて歩いていました。
ふと、目の前を何かが上から下に通り過ぎ、足元に落ちました。
なんだろうと足元を見ると、どんぐりです。
青い、まだ未熟などんぐりが落ちています。
それを手にとって良く見てみると、奇妙な点がありました。
どうにも、ぽろりと落ちたようには見えなかったのです。
どんぐりは、それが着いていた小枝とともに落ちており、しかもその小枝は、何か鋭利なもので切られたかのような断面をしていたのです。
普通なら鳥の仕業、その植物の特徴か何かと思うのでしょうけれども、そのときは散歩中ですし「もっけ」も読んでいました。
山の精のようなものが、あいさつ代わりにどんぐりをよこしたのだと思うようにしたのです。
道行く人にあいさつをするなんて、律儀なものです。
さて、周りを良く見てみると、同じようなどんぐりが枝とともに落ちていました。
全ての人にあいさつをしているのかもしれません。
でも、これではどんぐりがなくなってしまうでしょうに。
それに、こんなあいさつじゃ、気づかない人の方が多そうですし。
そんなことを考えながら、手にしていたどんぐりを放って歩き出した私はそのあとすぐに、案外この考えがいいセン行っているかも、と苦笑しながら思ってしまいました。
何故かといいますと、その先の道に、今度は、青く未熟な栗がたくさん落ちていたのですから。

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