地獄機会

キャンプの目的は、キスをすることだった。
高校1年のときの、同級生達とのキャンプ。
夏休みを利用しての一泊二日。
僕の好きな娘も来ることがわかり、その日のことを考えるだけで何も手に付かないくらいだった。
キャンプ当日。
奥多摩にあるキャンプ場は、実際到着してみると、キャンプ場というよりは山の中のひらけた川辺。
人工物は何もなかった。
夕食の準備をしながら、僕は当初の目的を思い出していた。
キスをすること。
しかも、相手が寝ているあいだに、だ。
今となっては何を気持ち悪いこと考えてんだと思うけど、少なくともそのときはそこまで考えが及ばなかった。
彼女は既に誰かと付き合っていて。
それをどうこうする勇気もない。
ただ、そのキスで、僕は死ぬまでその思い出に浸っていられる気がしたんだ。
明かりもないそのキャンプ場で、高校生らしい妙なテンションで時間は過ぎていく。
みんな、寝る間も惜しんで騒ぐ勢いだ。
それでも、次第にその勢いは消沈しだし、眠ろうかムードに。
最初から雑魚寝を予定していたテントへ、各自のそりと入っていく。
僕は落ち着かないそぶりを見せないようにしながら当たり前のように、彼女の落ち着こうとしているところから、もっとも離れた場所を選んだ。
やなやつ。
けど、どうしたことか、その彼女が場所を変えて僕の隣を選んでくれたんだ。
青天の霹靂。
いい意味で。
さて、どうしてくれよう!?。
早朝、僕は静かに起き上がり、隣に寝ていた彼女を見た。
目的は果たせなかった。
「なんか違うな」とかいう理由の、勇気のなかったこともあるし、「それじゃ意味がない」とも思った。
なんかわからないけど、起きたときはもう打ちのめされた気分だった。
勇気のない僕。
好きな人が隣に寝ているだけでもう満足という、幸せの閾値が低い僕。
とにかく、滅入ってしまっていた。
まあ、テントで寝ているみんなの中で誰よりも早く起きたことは、確かなんだけど。
僕は結局何をするでもなく、あわてて散歩に出かけたんだ。

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