片面宿儺

扉の閉まる直前に電車から降りる人を見たら、二通りの人物像を考えてしまうのは仕方のないことである。
おねぼうさんか、追われているか、だ。
これは、一見よくある「自分が前に歩いているのか、地面が後ろに動いているのか」的な話に聞こえなくもないが、違うところがある。
社会的に深そうな意味を持つかどうか、という点だ。
後者は、客観性や観点の変更といった意図が、見えなくもない。
一方前者は、せいぜいどんな理由で追われているかを考察する余地が少しあるくらいである。
せちがらい世の中。
やはり追われている理由を考えているほうが楽しい。
高いヒールの女性がいたら、それは背が高いように見られたいか、つま先付近に憎いやつがいるかだろうし、寒い日に白い手袋をしている人を見たら、それは寒さに弱い人か、これから犯罪を犯そうとしている人だろう。
台所で包丁を持っている人を見たら、それは料理に関係した人であるか、これから犯罪を犯そうとしている人だろうし、笑ってる人なんかは、楽しいことがあったか、これから犯罪を犯すんだろう。
いやあ。
今まで片方の人物像の人だけと、僕は会ってきたようだ。
すごくよかったよ。

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