記者「こうして色んな人の死に方を見てみると、実に多様ですね。」
?「そうだ。事故、病死、自殺、他殺に加えて、その中でも細かく分類できる。ずいぶん多様だ。」
記者「あなたが人の死に方を分類するんだと聞いていますが?。」
?「そうだ。もう20年くらいになる。」
記者「今日はその仕事振りを拝見させていただきます。」
記者「この事件なんかはどうなるんですかね?。
「スズランの花瓶の水を沸かして作ったお茶を飲んでしまい嘔吐。その後呼吸麻痺となり死亡。」
へぇ、こんなことになるんですか?、スズランって。」
?「スズランは強心作用を持つ物質を含んでいる。心臓の弱い人は重篤な症状になることもある。」
記者「なるほど。これは事故で、中毒という分類になるんですか?。」
?「これは、ロマン死だ。」
記者「ロマン死?。聞いたことありませんが・・・。」
?「スズランで死亡なんて、なかなかロマンティックじゃないか。ロマン死もしくはロマンだ。」
記者「嘔吐、呼吸困難などはロマンティックじゃないですが?・・・。」
?「やはり、スズランというところがポイントだ。また、このくらい柔軟じゃないと、これからの死に方の多様性についていけないのだよ」
記者「無理して増やすことはないと思うのですが・・・。」
?「次はこれだな、殺人事件。刺傷による失血死とある。」
記者「これは?・・・。」
?「これはマンネリ死に属する。」
記者「・・・???。」
?「見たまえ。仏は金歯の数からしてかなりの資産家だ。しかも、殺人現場が温泉地らしい。」
記者「マンネリの意味はなんとなく分かりましたが、別に「失血死」でいいんじゃないでしょうか?。さっきあなたそう言ったし・・・。」
?「だから、それでは死に方の多様化についていけないと言っているではないですか!!。」
記者「・・・(今日、中野のうまいラーメン屋いこ)」
?「これが最後だな。殉職された方だ。」
記者「拳銃か何かですか?。」
?「これは言うまでもなく、ロマン死だな。」
記者「えっ、また?・・・。」
?「見たまえ。彼は最後に刑事長から煙草を一本もらっている。ロマンだ。」
記者「・・・でも、さっきのロマン死とはずいぶん違う感じですね。」
?「そういえばそうだ。さっきのはロマン死じゃなくてメル死だったよ。」
記者「メルヘンの?・・・。」
?「メルだ。」
?「今日はこれで終わりだ。お疲れ様。」
記者「最後にいいですか?。」
?「何だね?。」
記者「ラーメン食いに行きません?。」
カテゴリー: 物語
玉手箱の普遍性
「お前は31年目を試食品コーナーのタッパの中で過ごすであろう。」
おおばばさまからそう告げられたのは2年前だ。
漬けられて30年。
梅干としてはそこそこありがたがられる歳だ。
だから、私は自信を持っていたのだ。
試食品なんかにはされないと。
でも、今はタッパの中で過ごしている。
お告げは見事に当たったわけだ。
そして今、私は32年物の梅干のサンプルとされている。
30ウン年物の梅干は、ほぼ種なので、誰も食べないのだ。
もし、カメの中に戻る機会ができたら、おおばばさまに聞いてみようと思う。
タッパの中に2年というのも、漬けられていると考えていいのか。
カメの中にいるときには考えられないくらいの早さで年老いてしまった自分を見て、どう思うか。
天地人その4
?「おまえって、どうしてそんな沈みがちな性格なんだ?。」
「生まれてこのかた変わらないんだよね・・・。」
?「こないだ知り合った飲み友達にいい人がいるから、会わせようか?。」
「こんにちは。」
ユキチ「やあ。」
同年出版された「學問ノスゝメ」は人々に愛され続け、ベストセラーとなった。
1872年(明治5年2月)のことである。
天地人その3
?「君はどうして、そう沈みがちな性格なのだね?。」
「どうも、生まれてこのかた変わらないんですよね・・・。」
?「社長のお時間が取れるようだから、アドバイスしてもらいなさい。」
「失礼します、社長。」
ヒヨドリ「君か。沈みがちな人というのは。」
「なかなか治らないんですよ。」
ヒ「それはそうだ。人間誰しも少なからず、そういう性質は持っているよ。」
「と、いうと?。」
ヒ「人間は地上をうろつくだけだから、上とか下とかに対する考えがどうしても希薄なんだよ。」
ヒ「その点、私は空間的にものを考えなくちゃならない。それは、上昇志向というか、そういうものをコントロールできる能力でもあるんだ。」
「上に行こうと思ったら、どういう風に?。」
ヒ「簡単だよ。そこいらにある空気を羽で叩きつければいいんだ。」
「ぼくに羽なんてありませんよ。」
ヒ「君の肩甲骨なら、いける。」
・・・
ヒ「よし、さっそく屋上に行こう!!」
屋上は風が強く、背広じゃ寒さをしのげない。
「・・・社長。なぜ社長はヒヨドリなんですか?。失礼を承知でお聞きしています。一体、どのような・・・。」
ヒ「あっ、虫!。」
ビルを滑空する社長を止めるための羽は、僕にはない。
僕は社長のかごへ、辞表を叩きつけた。
天地人その2
?「君はどうして、そう沈みがちな性格なのだね?。」
「どうも、生まれてこのかた変わらないんですよね・・・。」
?「ちょっと、モグラ君の時間を取っておいてあげたから、アドバイスしてもらいなさい。」
「こんにちは。」
モグラ「君か。沈みがちな人というのは。」
「なかなか治らないんですよ。」
モ「それはそうだ。人間誰しも少なからず、そういう性質は持っているよ。」
「と、いうと?。」
モ「人間は地上をうろつくだけだから、上とか下とかに対する考えがどうしても希薄なんだよ。」
モ「その点、俺達は地中を自在に動かなくちゃいけないからか、上昇志向というか、そういうものをコントロールできるんだ。」
「上に行くときはどういう風に?。」
モ「カンタン。土というものがあるから、それをかきわける力があれば、上も下も行き放題だ。」
「モグラさん。モチベーションの維持って、どうしてます?。」
モ「俺らは食べることが生きることだから。そこを約束されてることが、維持に直結しているね。」
・・・
彼が、給料の代替として会社敷地の地下占有権を獲得したことを思い出した。
僕はその地下占有権を獲得したかのように、沈んだ気持ちになった。
天地人その1
?「君はどうして、そう沈みがちな性格なのだね?。」
「どうも、生まれてこのかた変わらないんですよね・・・。」
?「ちょっと、マッコウクジラ君の時間を取っておいてあげたから、アドバイスしてもらいなさい。」
「こんにちは。」
マッコウクジラ「君か。沈みがちな人というのは。」
「なかなか治らないんですよ。」
マ「それはそうだ。人間誰しも少なからず、そういう性質は持っているよ。」
「と、いうと?。」
マ「人間は地上をうろつくだけだから、上とか下とかに対する考えがどうしても希薄なんだよ。」
マ「その点、俺達は深海から浮上しなくちゃいけないから、上昇志向というか、そういうものをコントロールできるんだ。」
「浮上するときはどういう風に?。」
マ「カンタン。うれしかったことを思い出すんだ。すると、実際に浮力が出てくるんだ。」
マ「俺がいつも思い出すのは、小3のとき、先生に「マー君は25mプールにぴったりはまるのね。」って言われたことだ。」
「ちなみに、潜水するときは?。」
マ「中1のときに、あだ名が「道祖神・黒光り組」になったことだ・・・。」
と言うないなや、彼は腹をおさえながらうずくまり、動けなくなった。
不可視の森その3
前のつづきなので、そちらから。
早朝、研究所の一室を改造した被験者室から出てきた私を、待っていたとばかりに所長が笑顔で迎えた。
「結果が出たよ。君は帰っていいよ。」
どういうことですか?。
「君は天涯孤独じゃない。今は鎖が一本、ジャラジャラいっているよ。」
・・・そうですか・・・。
・・・2つ、聞いていいですか?
実験というのは?。
「昨日の朝刊、ネットを使って、君がやっている慈善事業を特集した。それだけだ。」
そうですか・・・。
で、僕の鎖の先は?。
「それは個人的な話になるだろう?。わからないよ。」
「で、だ。この調査の御礼として、これを受け取ってほしい。」
そう言われて受け取ったのは小さな箱だった。
振ると、かたかた音がする。
これは?。
「今、君が一番ほしいだろうものだ。」
・・・。
「大丈夫、副作用はない。たぶん。」
研究所を去るとき、所長が駐車場まで見送りに来てくれた。
どうもありがとう。
「いや、こちらこそ。いい研究ができた。」
さて、僕はこれから、そっと鎖をたどらなくては。
「所長。所長が今朝出された調査報告書と、彼の「鎖」の数が合いませんけど?・・・。」
?「わかってる。」
不可視の森その2
前のつづきなので、そちらから。
男「???」
?「空、飛べる?」
男「何言っているんですか。そんなことできないでしょ。」
?「隠してない?」
男「おちょくってるんですか?。」
?「・・・今から3ヶ月ほど前に当研究所である薬が開発されたのだ。」
?「何かとの関係を「見る」ことのできる薬だ。」
男「???」
?「この薬を服用すると、例えば赤ん坊とそのお母さんが「鎖」のようなものでつながっているのが確認できるのだ。」
男「まさか!!。」
?「嘘ではない。血のつながり、赤い糸、絆、カレシの束縛。こういった象徴的な関係が可視化される薬なのだ。」
男「動物などでは?」
?「残念ながら人間でのみ、可視化できている。」
男「すごいですね。・・・それじゃ、僕が天涯孤独かどうかも、聞かなくても分かるじゃないですか。」
?「そう。実は、既に私は薬を服用している。そして、君には一本の鎖も見えないのだ。」
男「そうですか・・・。で、私がここにいる理由は?。」
?「その、見える「鎖」というものを特殊な機材で検査したら、ある程度の物性を持つらしいことがわかったのだ。」
男「と、いうと?。」
?「本物の鎖の性質を少なからず持つということだ。この薬を飲んでいると、いかに人間というものが多くのリレーションを持つ生物か、というのを実感させてくれる。」
?「もし、この鎖がひとつでもない場合、その人はどう違うのかを調べたいんだ。人間関係という呪縛。言いすぎかな?。それがないと、どうなるのか・・・。最初の質問は少し跳躍しすぎかもしれないがね。」
男「・・・で、調べるというと?。」
?「・・・。もう、実験は9割がた終わったよ。明日には結果が出る。」
ガキの使いとか見たいんで、明日というか、次に続く。
不可視の森その1
「所長、天涯孤独な人を発見しました。」
?「ここに。」
男「何か、御用ですか?。」
?「君は天涯孤独だそうだが、本当かね?。」
男「まぁ、そうみたいです。家族は死にましたし、親類と呼べるような者は一人もいません。もちろん、友人もありません。」
?「まずそのような立場の人間はいないと思うのだが?。血のつながりなどなくても、何かしら人間関係はあるだろう?。」
男「いえ、ないんですよ。お金は遺産がありますし、家にも誰もいない。買い物で人と接触があるといっても、知らない人ばかりですから。」
?「例えば、私との関係などはどうかね?。」
男「いやー。ここを出ちゃえば、もう一生会わないだろうことは想像に難くないですよ。」
?「本当にかね?。今、友達になって、と頼んでも?。」
男「お断りします。友達なんて、面倒くさいですし。」
?「うん。天涯孤独なんて、推理小説にしか存在しないと思っていたが。本当のようだ。」
?「では、本題。」
?「君、空は飛べるかね?。」
年末なので明日に続く。
作用と反作用
「わが社「死に方応援団」では、あらゆるニーズにお答えすることをモットーとしています。」
珍しい会社があるものだと、ビルの前で看板を見ていたら声をかけられた。
「人間いつ死ぬか分かりませんから。弊社でご契約いただければ、かなり突発的な最後でも、対応できますよ。」
ちょっと、イメージが湧きませんね・・・。
「例えば、お亡くなりになる前に親戚全員に看取られたい、といった契約をしていただければ、そのようにするということです。」
へぇ。
変な話、契約される方ってのはけっこういるんですか?。
「それはもう。」
プライバシー的なこともあるでしょうが、何か他にも例を挙げていただかないと、分かりませんね・・・。
「散骨を希望される方もいますし、最後は自宅で、という方もいます。そして、あらゆる手段を講じてそのようにいたします。」
他には?。
「そうですねぇ。最後は歩行者天国で、雨に打たれながら一人死にたいとかいう人もいます。誰かに刺されて、なんじゃこりゃーと叫びながら、という人も複数いますね。」
けっこう死に方を気にする人、多いんですね・・・。
「そうですね。どんな人でも生まれ方が選べない以上、死に方に執着するのはしょうがないでしょう?。」
なるほど。
では、私は「カミナリにうたれて骨が点滅し、アフロになって死にたい」で契約しましょう。
「ありがとうございます。ここにサインを。」
そして29年後の今、ゴルフをしていた私はカミナリにうたれたようだ。
病院に運ばれた私は、意識が消えゆく中、駆けつけた家族が腹を抱えて大笑いするのが少しだけ見えた。
・・・
ふと、ぼんやりした映像が、死んだはずの私の頭に浮かんできた。
どこか道を歩いている。
他の感覚はないのだが、実際に歩いているような感じだ。
しばらく歩いていると、前の方にログハウスのような建物が現れた。
「生まれ方応援団」とある。
・・・
選べてたんだ・・・。