僕のガムシ

川辺近くの田んぼに水がはられてから、幾分たつ。
虫取り網を持つ少年達に混ざり、その水の中を覗き込んでみる。
すると、小さな生物がちょろちょろ泳いでいるのが見てとれる。
彼らは気づいていないようだが、ある種類のゲンゴロウが何匹かいるようだ。
もちろんそのゲンゴロウは、よく知られた濃緑色の、体長4cmくらいのヤツではない。
しかし、多くは体長1cmにも満たない種類なのに、ソイツは1.5cmくらいはありそうだ。
この田んぼにはよく来るが、この大きさのゲンゴロウが何匹もいることは、少し珍しいように思える。
さて、ノスタルジーな感じかつ、あまり興味深くない出だしでナニだが、今回は「ガムシ」について。
水生昆虫として知られている虫である。
ガムシは、冒頭で説明したゲンゴロウと同じく、甲虫(かぶとむし)の仲間で、こまごました種類も多い。
しかし、その知名度はかなり低いのでは、と思う。
確かに、その姿を図鑑などで見てみると、その理由もわかる。
たとえばゲンゴロウは、美しい流線型ボディを持ち、水をかくのに適した足を持つ。
カメムシ種系で泳ぎ回るタイプも、それに近い。
またカメムシ種系では泳ぎまわらないものもいるが、彼らはその分、やたら攻撃的なフォルムを持つ。
それに対し、ガムシはどんくさいコガネムシ型だ。
特異な姿をした水生昆虫は、子供達の人気者だが、このガムシにいたっては、その限りではない。
「こいつ、他の水生昆虫が水のことや狩猟のこと考えているのに、なんだこのていたらくは!!。」
その写真から、そう憤りを覚えることだろう。
形を見る限り、彼らは何も考えていないように感じるのだ。
ところで、この子供達の感想は、特別局所的な話ではない。
実際、彼らは腐った水草などを食し、そもそも捕獲器官はなくてもOKなのだ。
※ガムシの幼虫はゲンゴロウと同じく、がっつり他の動物を喰らうのだが、いかんせんイモムシ型なので、気持ち悪く、近くにおいておきたくないタイプである。
それに、図鑑にすら「泳ぐのがへた」と書かれてしまうのである。
図鑑の水生昆虫コーナーで、その特徴を「泳ぐのがへた」「体は流線型でない」と書かれてしまうガムシ。
子供達が興味を示さないのも、しょうがない。
ちょっと、水生昆虫を探しに行く子供達のなかに紛れ込んでみよう。
「よし、今日はタガメ(カメムシ系水生昆虫のトップ)とゲンゴロウを採ろう!!」
2時間後。
「タイコウチとか、小さいゲンゴロウでもいればいいんだけれど・・・。」
2時間後。
「アメンボはいっぱいいるんだけれどね。」
2時間後。
「もう、ガムシでいいから!!。ガムシでもいいから!!。」
こんな感じ。
ガムシには悪いが、水生昆虫を愛する子供達にとって、ガムシは最大限の譲歩なのである。
ところで、僕はこのガムシに一度だけ会ったことがある。
つづく。

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