綿毛考察 1

たんぽぽの綿毛が、風に乗って飛んでいる。
そんな風景を見たことがあるだろう。
一般的に、たんぽぽの綿毛、すなわち種は風によってどこか遠くに運ばれる。
しかし、そんな当たり前のことほど、重大な点が見落とされているかもしれない。
そう思ったのが僕の曽祖父、竹三郎だ。
竹三郎はいつか「綿毛は風で飛んでいるのか」をちゃんと確認しよう考えていた。
しかし半年の旅行を計画してしまったので、その確認が僕にまわってきたわけだ。
ハワイから「ガラスの容器」が送られてきた。
これで風を遮断し、たんぽぽを観察しろということらしい。
なぜハワイにまで容器を持参していたのかは不明だが、僕はさっそく近所にあった、綿毛みちみちの検体を採取し、容器で鉢を覆った。
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1日目
変化なし。
風がないから揺れもしていない。
2日目
変化なし。
3日目
変化なし。
4日目
変化なし。
このままかれてしまうのではないだろうか。
今日が5日目だ。早朝。
鳩に餌をやるために、トランペットでそれをおびき寄せ終えたあと、容器を見た僕は、あることに気づいた。
綿毛のひとつが浮いていたのである。
はじめは何かの拍子に外れてしまったのではないかと思ったが、それにしてもおかしい。
ずっと浮いている。そしてゆっくりと漂いだしてもいる。
どういうことだろう。
これまでと同じように、写真に収める。
6日目
鳩に餌をやるために、トランペットでそれをおびき寄せ終えたあと、容器を見た僕は愕然とした。
綿毛という綿毛が容器内を漂っていたのだ。
これまで、綿毛は風によって受動的に「流されている」と思われてきた。
しかし、それは間違いだった。
あれが軽く、身近な植物であるが故に気づかれていなかったが、彼らはかなり能動的に動くことができる。
どうも、風に乗って飛んでいるのは、エネルギーをあまり使わないようにしているのだろう。
それにしても、綿毛は容器内をつんつん動いている。
少し不気味だ。
7日目
鳩に餌をやるために、トランペットでそれをおびき寄せ終えたあと、容器を見た僕は思わず隠れた。
容器の中が白くなっていた。
どうも綿毛がすごいスピードで飛び回っているようなのだ。
近づいてみると、かさかさ乾いた音がする。
おそろしい。
容器をはずしたらどうなるのだろう。
8日目
鳩に餌をやるために、トランペットでそれをおびき寄せ終えたあと、容器を見た僕は思わず息を呑んだ。
採取してきたばかりの状態で、たんぽぽがあったのである。
綿毛がひとつとしてくずれておらず、落ちてもいない。
あのまんまるな状態で、そこにあった。
「飛び回っていた綿毛が格納された」のだ。
これが今回に確認による、結論だった。
綿毛は飛びまわった後、エネルギーがなくなったからなのか、充填を行うために親体に帰還した。
そんなハイテクロボの新兵器のようなことが、綿毛には隠されていたのだ。
僕は昨日から、ずっとおそろしい。
9日目
僕は1日目と今日の写真を封筒に入れ、竹次郎に送ることにした。
「おじさん、特に何も起きなかったよ」と。
12日目
返事が来た。
「俺は竹次郎だ。竹三郎じゃねえ」

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