帰り道。
「ぼく、知っちゃいけないことを知ってしまったかも。」
え、どうしたの?
「だから、知っちゃいけないことを知っちゃったんだ。」
…何を知っちゃったの?
「坂木先生、いるだろ。」
うん。
「あの先生、放課後、いつも図書館にいるんだ。」
そうだね。
「なんだかいつも気になっていたんだけど。」
うん。
「こないだ、気付いたんだ。」
だから、なにを?
「先生、ある棚の、端から端までの本を順番に読んでいるみたいなんだ。」
え、それが、どうしたの?
「考えてもみてよ。すごい量だよ、端から端。」
うん。
「貸し出し履歴を見てみたんだけれども、どうやら今、読んでいる棚の前は、違う棚を総ざらいしていたみたいなんだ。」
うん。
「どうやら、図書室の本を全部読む気なんだよ」
うん。
「それで。先生が全部本を読み終えてしまったとき、何かが起こると思うんだ。」
え、何が?。
「それは分からないけど、あの量の本を読破するんだもん。何かおこるよ。」
そうかなぁ。
「すごく何かに感化されるだろうから、僕らへの授業の内容も変わるかもしれない。」
うーん。
「それに、おかしくなって、廊下の向こうから走ってくるかもしれない」
それは怖いね。
「僕はこれが一番可能性が高いと思うんだけど、先生は何か秘薬を作ろうとしているんだ。」
うん。
「だから、調べものをしていたことを知っている僕はあぶ」
あっ、できた!!
「あっ。ほんとだ!!。すげー!!。」
僕の手の中には、壊れて粉々だったはずの、校長先生の湯のみ。
誤って割ってしまったのを、だまって持ち出した。
でも、どうすることもできずに、手の中でもてあそんでいた。
それが、見事に復元されていた。
「あんなにばらばらだったのに。何やったんだよ。」
分からないよ。君の話を聞きながらいじっていたら、こうなっていたんだ。
「ど、どういうことだろう・・・。」
・・・坂木先生のおかげかな。
「そうかなー。」
・・・秘薬。秘薬のくだりかな。
「うーん。僕は貸し出し履歴のところが怪しいと思うな。」
な、なんで?
「それか、すごい量のところ。」
そこはないでしょー。
・・・その日も何事もなく、平和でした。