産山の村役場で待つこと10分くらい。
顔も覚えていなかったが、なぜか目の前を通る車がおじさんのものだとわかった。
阿蘇のおじさんはかなり阿蘇のおじさんで、元気そうだ。
交わす言葉もそこそこに、お家にお邪魔することにし、車で後をつけていった。
ここ産山は村役場を中心にそこそこは住宅が多いが、少しはずれると、山の隙間いっぱいに田んぼを作りました、という感じの風景になる。
おじさんの家に電話するまでの20分くらい、歩行者がおじさんじゃないかというチェックと散策をかねてうろうろしてみたのだが、おしゃれそうなカフェなどもあり、なんだか昔と違うなという印象。
僕は初めて阿蘇のおじさんを訪ねたときのことを思い出した。
おじさん、おばさん、僕の誰一人思い出せなかったのだが、何らかの方法で僕はおじさんの家にやってきたのだ。
その理由はひとつ。
タガメがたくさんいるというおじさんの話を聞いたからだ。
タガメというのは先日も触れてしまったが水生昆虫の一種で、攻撃的なフォルムが子供ウケし、独特な香りがアジアンの食欲を促す。
水のきれいな所にしかいないという触れ込みもまんざら嘘ではなく、僕は見たことがなかった。
そ、それがたくさんいるの!!。
今でも覚えているが、阿蘇に行くまで、僕は昆虫図鑑にどの水生昆虫を何ペア捕まえるかというらくがきをしまくったのだった。
だから阿蘇のおじさんの家に着いたときの「タガメはいないね」という台詞は、おじさんに殺意を抱かせるに十分だった。
殺害に至らなかった理由は、僕が殺意というものを殺意と認識することができなかったからだろう。
「何かアツいものがこみ上げてくるが、それが何かわからないので、特に何もしない」
今考えると、けなげ(?)だ。
そして何より、帰るまでの2日間はすごく楽しかったんである。