スクーター

家に、ほとんど乗っていないスクーターがある。
レトロな雰囲気のもので、なかなか高価だったもの。
しかし乗らない。
そもそも使用するほど、遠くて線路が行き届いてないところへ行く事がないわけだが、同時に怖かったというのがある。
一度乗ってみたら、怖かった。
それは「特に何もせず、グリップをぐりりとやるだけで走る」ことへの違和感だった。
車はどうか。
車はすごく大きくて規模もでかいことが見て取れるので、「まあアクセルを踏めば進むくらいのシステムは携えているのだろう」と思える。
しかしどうだスクーターは。
ほぼ自転車じゃあないか。
しかしぐりりとするだけで、すーっと進む。
やたら進む。
少しの労力ですいすい進む事が、信用ならない。
なんかあるんじゃないのかと疑う。
アクション映画では、たいていの車はエンジンをかけたときに爆発する。
スクーターのグリップに手をかけるとき、そんなことを思い出す。
爆発はいやだ。
死んでしまうし、周りにも迷惑がかかる。
タイヤから刃が出るのだろうか。
グリップのぐりり度合いによって刃の出方が変わるのである。
意味はわからないが、とりあえずそれはもはや交通手段としてのスクーターはどこにもなくなってしまい、ただ刃が出入りする仕組みの、何かだ。
しかしスクーターは何かの仕組みに落ち着く事なく、ちゃんと進むのだった。
その素直さが、また怖く。

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