あれと呼ばれたオブジェクト

使う頻度の高かった言葉はその歴史の中で、より簡潔に短くなっていったに違いない。
例えば、かに。
おそらく海辺に昔からいておいしい彼らを、我々の祖先がほっておいたはずはない。
昨日捕まえた「波とともに足音なく近づくえもの」がうまかったよ。
当初はこんな名前だっただろう。
要は、説明なのである。
現在我々が認識している名前という概念がなかったため結局、汎用的にかにを示す何かが、なかった。
それゆえにミニ説明なのである。
しかし、人類がかにに触れてから、そこそこの期間はこの長い名前だったが、問題が出てきた。
もちろん「長くない?」ということである。
その、今まで重視されていなかった「名前の長さ」が問題になったのは、おそらく「おい、あそこの「波とともに足音なく近づくえもの」を捕まえろ!!」と言っているあいだに「波とともに足音なく近づくえもの」が逃げてしまったというシーンである。
我々の祖先はこのとき「何かがまずかったせいで、波とともに足音なく近づくえものがとれなかった」ことを猛省し、同時に時間という概念を取得しただろう。
時間がかかればかかるほど、何か起きてしまうのである。
この場合、時間がかかったために、「波とともに足音なく近づくえもの」は遠く遠くに行ってしまった。
足音どうこうなんて関係がなく、波の動きも関係なかった。
ただ、このへんで「じゃあみんなが認識できる言葉で、あいつを表現しよう」という運動に発展したかどうかとなると、少し怪しい。
とりあえず「波とともに足音なく近づくえもの」自体を早く言うことで解決しようとしただろう。
「足音なく近づくえもの」
「足音ないえもの」
「あしおとえもの」
「あえ」
「あれ」の誕生。
「あれ」は「かに」よりもちょい早めの誕生なのである。

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