こないだ行った美容室で、忙しいのか散髪中に待たされることがあった。
そりゃまあいいのだが、人は、散髪中は弱い。
今地震が起きたら・・・などは、散髪中の自分の姿を鏡で見たものなら誰しも危惧するところである。
それにしても待つ間、暇なので目玉だけをきょろきょろさせ、何か探した。
あった。
雑誌だ。
Cutという、なんやずいぶん美容室にあった雑誌だ。
実際そういった方面なのかもしれない。
本当は、少しは動いていいのだろうが、美容師さんが戻ってきたときに「あ、こいつ動いた」とか思わせないように、みじろぎすらせずに、それを観察してみた。
怪物くんが表紙である。
藤子アニメである。
確かドラマがやるのだ。
それが内容なのだろう。
それにしてもの怪物くんである。
全パーツが大きい。
こういうとき、僕はときどき「まじまじ見る」ということをする。
以前触れたゲシュタルト云々なのか、ものというのはじっくりみるとそれを構成するパーツそれぞれを認識してしまい、構成自体はぼやけるため、なんだか面白いのだ。
そして、今まで僕はそんなにちゃんと怪物くんを見ていなかった。
この機会。
せっかくだからいきなり「怪物くん書いて!!」とか言われても、そこそこのものを出力できるようにしたいところ。
要は体を動かせぬばかりの、ひまつぶしである。
ということで、見た。
すごく見た。
怪物くんの目は、いつからか二つの丸いものになり。
さらには片方にはなにやら点が、もう片方には「ひらがなのへ、に似た何か」が入っている円になり、それがただそこにあった。
口も、何か赤いものに変わった。
怪物くんは目の覚めるような色彩感覚の持ち主で、発色満点な色の衣類を着ている。
それが怪しく明滅しだした。
そんなに時間はたたなかったと思う。
僕の見ていたそれはもはや怪物くんとは認識できず、ただそこにある何か、としか言いようのないものになっていた。
と、僕はこの辺で怪物くん?を凝視していたのだが、あることにも気づいた。
椅子が揺れているのだ。
どうも怪物?くん?だけでなく、視野に入るもの全てがその構成を崩壊しつつあるようだった。
雑誌の置かれている机は脚と面からなる何かになり、視野の端っこに見える、僕の身のおいているものはおそらく「イスー」とかいうものになってしまった。
いかん、あの発色のいい何かを見つめすぎるあまりに色んなものが自己主張し始めた。
「すいません、おまたせしました」
美容師さんの声で、どうにか「帰って」これた。
その後、僕は「怪物くんの帽子のてっぺんには、ポッチがついていたはずだ」と、ポッチのない帽子をかぶった表紙の怪物くん指差し論じたが、美容師さんもそれほど怪物くんには明るくなく、双方もやもやして終わった。
怪物くんを描く機会には未だにめぐり合ってない。