香り

「干したてのふとんみたい・・・」
彼女は僕の胸のなかで、そうつぶやいた。
彼女の涙でぐしゃぐしゃになりながらも、僕は気になることがあった。
1:干したてって、それほど暖かくないのではないか
2:ほめられていると考えてよいのか
3:少しおかしいのではないか
箇条書きにしてみた。
1について考えてみよう。
あまり聞かない言葉だ「干したて」。
そもそも「干す」というのは、「長い時間をかけて」みたいなニュアンスがあるような気がする。
干ししいたけだって、あんなおばあちゃんみたいになるまでは、多くの歳月を費やしただろう。
その点は本当におばあちゃんだ。
そこにきての「干したて」だ。
「長い間干してきたものを、すぐここに持って来ました」という意味の「たて」なら、いい意味なのだろうが、「干してはみたが、それよりも持ってくることを優先しました」だと、ちょっといやだ。
ちゃんと干されてないのはいやだ。
それは「ちょっとそこらに置いていました」となんら変わらないから。
少し震えている。
2について考えてみよう。
これはほぼ2と同じ問題だが、少し彼女の嗜好も関係するだろう。
すなわち「彼女はカビくさいにおいが好きだ」という点。
体臭とかもあるだろうけど、基本的には物を干せば、例のいいにおいがする。
それを好きな人は多いが、一方でちゃんと干せなかった衣類が放つ、ちょっとカビくさいにおいが好きな人もいそうではある。
そんなことを考えると、?をどう捕らえてよいのか、なおさら難しいところだ。
少し落ち着いてきた。
3について考えてみよう。
いや、そんなはずはない。
彼女におかしなところなんて、ひとつもない。
僕が彼女をそっと引き寄せると、洗髪料のいい香りが漂った。
僕はつぶやいた。
「挽きたてのコーヒーみたい・・・」

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