目と口、ともに ?

「ぬっぺらぼう」にいわゆるということもないが、いわゆる「ぬっぺらぼう」についてのおおよその話の流れとして、以下のようなものがよく知られている。
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その夜、私が早足で家へ帰ろうとしていると、電柱に向かってかがみこみ、すすり泣いている女の子がいました。
気になったので声をかけてみると、けなげにも女の子は「どうもしないんです。気づかっていただいてごめんなさい」と言いました。
泣いていることが気になるし、曖昧な好意も持ってしまった私は、やさしく泣いている理由を問いました。
すると彼女は、こういいながらゆっくりとこちらを振り向いたのです。
「さっき、こんな顔の人を見ちゃって」
その顔は小さな毛穴ばかりで埋められた、目も鼻も、口もない、無貌そのものだったのです。
幸運にも気を失わずに済んだ私は、しかし何か大声を出しながら、その場から逃げ出しました。
一刻も早く、それから遠ざかりたかったのだと思います。
どれほど走ったでしょうか。
赤いライトが点滅する、深夜の工事現場まで私は走ってきていました。
ライトを振る作業員の背中が見えます。
息も絶え絶えの私は、助けを求めるかのように彼の肩に触れ、さっきの出来事を吐き出しました。
「すいません、今、へんなもの見ちゃって。休ませてくれませんか?」
するとその作業員は、やさしくこう言いながら、こちらを振り向いたのです。
「そりゃ大変でしたね。で、そのへんなものって、こんな顔した人のことじゃないですか」
私はついに気を失ってしまい、介抱してくれた人の家で起きたのは、それから3時間もあとのことでした。
それからというもの、私は背を向けている人に声をかけるのが恐ろしくなってしまったのです。
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ながっ。
でもこんな感じ。
2段構造なのである。
ところで、僕はぬっぺらぼうに知り合いがいないので、ここから憶測になるのだが、ぬっぺらぼう側から見て、この2段構造はどういった意味を持つのだろうか。
?一度安心させておいてから再度同じ目にあわせることで、その恐ろしさから抜け出せないというさらなる恐ろしさを生み出させる目的。恐ろしさを劇的に倍増させること。
辞書にぬっぺらぼうの話を掲載するとしたら、その内容は上記のようなものになるのではないか。
多くの人がそう思っているだろうし、僕もそのひとりだ。
だが一方、こういった視点もあるだろう。
?一度安心させておいてから再度同じ目にあわせることで、その恐ろしさから抜け出せないというさらなる恐ろしさを生み出させる目的、を演出したことへの賛美。正当な評価を受けること。
このような2段構造は多くの怖い話、そして面白い話で見られるものである。
その演出を複数のスタッフを使用して実現したその労力、実績を認めてもらいたいのでは、とは考えられないだろうか。
僕は基本的に怖いものが苦手なので、できないだろう。
しかしもしこういった場面に遭遇できて、少なからず今回の話を思い出すことができたなら。
2回目のシーンで、僕はこうやってみたい。
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するとその作業員は、やさしくこう言いながら、こちらを振り向いたのです。
「そりゃ大変でしたね。で、そのへんなものって、こんな顔した人のことじゃないですか」
「うまいッ!!。うまこわいッ!!」
そういって私は彼の顔を叩きました。
「この流れはうまいよ!!。さっきのひとんとこからここまでの距離。そしてここのスタッフの適度な数。すごいよ。これは後世に残る名演出だよ!!」
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もしぬっぺらぼうたちの考えが?だとしたら、これは泣けるほどうれしいことだろう。
そして、それによって僕は彼らの目、うまくいけば鼻も、どこにあるのかを知ることが出来るかもしれない。
もちろん目鼻自体がないから、涙も流せないかもしれないけど。
なんせ、僕はぬっぺらぼうに知り合いがいないので。

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