友好的買収

ずいぶんと山奥で心配だった。
人家はあまりなく、歩道も整備されているとは言いがたい。
すぐそばを、猿の親子が歩いていく。
でも会場に近づくにつれ、にぎやかな祭囃子が聞こえ、人の数も劇的に増していった。
その桜祭りは大盛況だったのだ。
なんだか懐かしい気持ちになりながら出店を見回っていくと一角、すっぽりと人だかりのない箇所に気付いた。
近寄ってみると、ハチマキにハッピを着用したオヤジが、ちょこんと座っている。
そして、手にヒモを持っている。
そのヒモが奇妙なのだが、ヒモの先にはハッピが。
オヤジの着用しているハッピと同じものなのだが、ずいぶんと小さい。
そんなものが付いているのだ。
私はたまらず「オヤジさん。何やっているのですか?」と聴いてしまった。
するとオヤジは「やっぱり、分かりませんかね。」と言う。
私が返答に困っていると、それを察したのか教えてくれた。
「今、エア猿回しやっているんですけどね。」
そう言われて周りをみると、確かに小さなタイコや竹馬など、まあ猿回しの芸として重要なツールがいくつか置いてある。
「エア猿回しですか。」
「ええ、でも、ちょっとわからないですよね。」
「まあ。その、なんですか。ちょっとオヤジさんは先見の明すぎでしょ。」
「そうですかねえ。」
「でも、なんですか。別にエアじゃなくてもいいんじゃないですかね。」
「猿回しとしては訓練とかも必要でしょうけど、さっきなんか、そこらでも猿を見かけましたよ。」
「ああ、それですか。いやだなお客さん。それもエア猿回しですよ。」
そう言うとオヤジは、私の背後の風景を見るような目をした。

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