僕にはウィンドウショッピングという文化があまりなく、しれっと店内に入って、一周したらさっと出てくる。
そんな感じで時間をうまく潰す事のできない難民である。
ただ、それが悪い事ばかりなのかというとそうでもなく、気に入ったものがあれば迷う事なくそれを買う。
その潔さたるや自分がほれぼれするほどで、おいおいそんなに何も考えずに買っていいのかい、と自問してしまうほど。
先日も、都内の電気機器とメイドが五分五分の場所にて、帽子屋を発見した。
僕は最近、とにかく布状のイスラム帽を探しているからそこでも探そうと思ったが、一瞥して既にそれがないのがわかった。
ならばもうここに用はないと立ち去ろうとしたとき、ひとつ目を奪う帽子があった。
それはツバのある、いわゆるキャップ的なものだが見てくれはワーカーキャップのように素っ気ない。
ただ、耳を隠すひらひらがついていた。
これはすぐ買った。
なぜかは分からないが、気に入ってしまったのだ。
おそらく、僕の気に入った点は耳を隠すやつのついている帽子は、たいがいもこもこしたやつだが、これはもこもこしていない。
その一点に尽きる。
僕の考えでは、寒くもないのに耳を隠す必要はない。
それなのに、たいがいの耳を隠すひらひらが付いている帽子は、それがもこもこしている。
イヌイット的な、例の帽子の類い。
冬ならともかく、あれがもこもこと主張している帽子を、僕はあまり好かない。
何をもこもこしているのか、と。
そんな中、その店で見つけた帽子のひらひらはあまり主張がない。
見てくれも地味だし。
どうであれ、その日はこの帽子の出費により他の何物もスルーしなければならない事態となってしまったのだが。
そもそも、耳を隠す必要があるのかと言えば、なかなか難しい。
ただ、よく見ると、耳は驚くほど官能的な形をしている。
だから、それを出したい日も、隠したい日もあるというのは、そう不自然な事ではない。