いい雰囲気のバス停を過ぎるとその近くに、以前には見られなかった花壇と、モニュメント的な人工物が立てられている。
ここは黒石海岸だよ、と教えてくれている。
そうか、ここは黒石海岸だったのか。
そしてこのモニュメントには、ここが日本の夕陽百選のひとつであることが記されていた。
そうか、百選のひとつだったのか。
海まわりの夕陽はきれいだ。
だから、これを見たとき、最初は「日本には海岸が百カ所以上ある」と勝手に解釈してしまっていた。
ところがよく考えてみると、この夕陽百選の中には、おそらく海まわり以外の場所も含まれているにちがいない。
だから、もしかしたら海岸としては唯一のランクインかもしれないのである、黒石。
すごいぜ。
しかしそのすごさも、この「夕陽百選」はどれほど本気のものなのか、ということに尽きる。
本気でない、さしてやる気のない委員会が主催したのなら、ランクインしたところの多くは「ああやっぱり、あそこか」という、みんなおなじみのものになってしまうだろう。
しかし本気なら、例えば「葛飾区の伊藤さん宅ベランダ、身を乗り出して」がどうしてもすばらしく、ランクインさせちゃいました。
そんなこともあるはずなのだ、本気は。
「群馬県に住むまりもさんが所有するケータイの内部メモリ、23枚目」
「神戸市の今井さんが7歳のとき見た、おったけやま頂上からの夕陽」
本気の結果なのだとしたら、これらもいたしかたない。
むしろ後者のなどは、失われた点がむしろ高評価だ。
どうだろう。
黒石の夕陽は、これから失われゆく夕陽だろうか。
僕にとって黒石の夕陽は、失われて久しい。
今日も失ったまま、ここを去るはずだ。