日本では「そして誰もいなくなった」という名の、アガサ・クリスティの推理小説がある。
とことわるのもどうかと思うくらい、有名らしい。
「そして」だ。
この接続詞は、一般的にはその前に何か文章があって、それに付け加える形で更なる文章を紐づけるときに使用する。
ただ、この「そして」の前に文章はない。
それはタイトルであるからかもしれない。
そもそも原題はまた違うらしいし。
しかしかなりいい雰囲気を出している。
小説の内容がまさに「10人くらい人がいましたが、結果いなくなりました」ということで、しかもそれが一人ずつなものだから。
で、話は変わるが、この「そして」に、接続詞たる役割を思い出してもらうべく、勝手に「前の文章」を考えてみる。
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「奥さん、あっちの魚屋の方が安いらしいわよ」
「そして誰もいなくなった」
館内放送で、かわいそうなぞうの朗読が始まった。
「そして誰もいなくなった」
お母さんは身支度を済ませると玄関にかぎをかけ、会社に向かった。
「そして誰もいなくなった」
街頭テレビで、ついに力道山の空手チョップがはなたれた。
「そして誰もいなくなった」
「ちょっと、誰かいない、ねえ・・・。なんだよ、みんなどこ行ったんだよ・・・」
「そして誰もいなくなった」
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どうだろう、ちゃんと誰もいなくなっただろうか。