「もしもし、武田?」
「はい武田です。ああ先輩ですか。どうも」
よくある携帯電話でのやりとり。
用件がやり取りされる。
おやおや、先輩と武田の用件は、ゲームの事のようですね。
「その村、入り口に隠し通路があるから、その奥にいる村人に話しかけるんだよ」
しかし唐突に武田から電話が切られる。
「ああそうなんだ。あれ、すいません先輩。いまちょっ」
すぐにかけ直す。
「なんか切れたな。武田?」
「ハイ、タケダデース」
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ありがちなお笑い話かもしれないが、結構奥が深いと思う。
まず「先輩」はこう思うだろう。
知らんやつが電話に出た。
なぜか武田は電話に出られないらしい。
何かあったのか、と。
次に、もしかしたら電話の内容が何かしらの国家機密であるとか、著しく公言してはいけない内容だったろうかと回想する。
それを話してしまったが故に武田は捕まってしまったのか。
そのあと、すぐに訪れる2つの恐怖。
自分も捕まってしまうかもしれない恐怖。
村の隠し通路の話題に何ら後ろめたいことはないが、実際武田は知らん人になってしまった。自分もそうされてしまう、そんな恐怖。
そして「明らかに武田でない誰かが武田のなりをしようとしている」のが何よりも怖い。
それは「すごいことになってしまったが、それを何もなかったかのように振る舞おうとする」意思だ。
しかも、何もなかったかのように振る舞うためには最重要そうな「武田」が下手すると日本人ですらなさそうなこと。
かなりの緊急性をはらんでいることが想像される。
「タケダデース」は、一人の存在が不明になってしまった以上の緊急性が起きた事を感じさせ、「先輩」を驚愕させ、「もうゲームなんかやらない!!」と思わせるだろう。
実際にいたずらをやってみたい気もする。
「電話がかかってくるから、ちょっと僕のなりして対応してくれない?」
ただ心配なのが、思いのほかその2回目の電話が盛り上がってしまったらというところだ。
個人を否定された気になった僕は、その場で顔を覆ってしゃがみこんでしまうかもしれない。
そして次からはこうだ。
「ハイnimbusデスケドー」