中島らも「頭の中がカユいんだ」には、酒を注文してそれを飲み干すと、何秒もせずして店を出て行く人の描写がある。
アルコールを体内に取り入れるためだけの行動、その殺伐とした雰囲気がよく出ているのだが、これはコーヒーではありえなさそうである。
まず、コーヒーは入れるのにほどほど時間がかかる。
そしてコーヒーを急いで体に取り入れなければならないことが、普通ない。
そんなこんなで、上記の酒のようなシチュエーションは、コーヒーにはないのである。
ところが、である。
入店すぐにブレンドを注文。
ブレンドを飲み終えたら颯爽と出て行く人がいるのである。
もちろん注文後、すぐにはコーヒーは出てこないため、新聞などを見ている。
しかしコーヒーが出てくるやいなや、すぐそれを口にし、一言二言したと思ったらもう出ている。
ダンディーである。
何を急いでコーヒーを飲むことがあるのか。
愚問である。
コーヒーを飲まないと倒れてしまうのか。
関節が痛むのか。
眠くてしょうがないのか。
やはり愚問である。
結局、コーヒーの好きな人には「あーもう、コーヒー飲まんとたまらん」というときがあるのだ。
それが人を、「コーヒー飲み去り」というハードボイルドな行動に走らせるのだろう。
日常のコミュニケーション、わずらわしい。
新聞?。焦点が合わん。
早くコーヒーを嗅がせてくれ!!。
こう書くと少々騒がしく、ダンディーじゃない気もしてきた。
でもとにかく「コーヒー飲み去り人」はこんな状態であり、はたから見る分にはやはりダンディーで、これから指名手配犯を逮捕したり、親の敵を討ったり、劣勢な裁判を覆したり、不可能と思われた時間内の荷物届けをやってのけたりするのだろう。
かっこいいのである。
と、無論ここまでくれば「実は僕でした」とやりたいところだが、残念。
当方、一度で長く効く方なんで。