例のパラドクス。

もう43年も前にもなるか。
僕は不思議な体験をした。
といってもせいぜい1秒くらいの間。
どこからともなく「ある時間を告げる声」を聞いた。
それだけ。
ただ、気になるのはその内容「2034年11月2日16時4分」ではなく、どちらかというとその声が自分のようだったということだった。
そして今、2034年11月2日16時。
あのときの体験の全貌がわかった。
あの声は過去へ飛んだ、僕自身の声だったのだ。
実験段階のタイムマシンに乗って過去へ行く。
時刻を入力して過去への移動中の今、そのことに偶然気づいた。
それまで、あの不思議な体験のことなんて思い出さなかった。
偶然に、実験の時刻として「あのとき」を選んだのだ。
僕は告げたんだ。
過去の自分に、タイムマシンに乗り込んだときの未来の時間を。
理由はひとつだろう。
「お前はその時間に、ここに戻ってくるんだぞ」だ。
本当はそう言いたかったんだろうが、タイムマシンの性能なのか、事故でもあったのか。
時刻しか告げられなかった。
そして僕が今何より感動しているのは、あの体験のことを「偶然」思い出したことだ。
どうも僕はこのタイムトラベルで、過去の自分に今の時間を教えることになる。
そのことをタイムマシンに乗り込む前に思い出してしまっていたら、未来の自分には申し訳ないが、作為的に時間をずらしてしまったかもしれない。
それが、タイムトラベル中の今、思い出した。
もう行き先の変更はできない。
これほど過去の自分に告げることが明確なことなんてないだろう。
思い出した偶然と言うべきことが見つかったこと。
あの日の不思議さが、タイムトラベルの醍醐味であることに気づけたこと。
これらは、僕を強く感動させた。
タイムトラベラーがトラベル真っ最中に、時間を止めたいなんて思うとはね。

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