図書館で綿毛について調べていたところ、頻繁に「はふり」「綿毛のはふり」という言葉の出るページがあった。
「はふり」というのは聞きなれない言葉だが、確か神事に携わる職のことだったはず。
綿毛とそれには、どんな関係があるのだろう。
興味を抱いた俺は、さっそくそのページが指し示す場所に向かってみることした。
兵庫県太子町。
紹介されていた住所は住宅街の一角だった。
大した連絡もせずに来訪した俺を出迎えてくれたのは、本にも載っていたじいさんだった。
俺:
「はふり」というのご存知ですか?。
じ:
「は、なんだそれは?」
俺:
ええと、「綿毛のはふり」とかいうやつなんですけど。
ほら、本にも載ってる。
コピーを見て、じいさんはひざを打った。
じ:
ああ「綿毛のはふり」ですか。
知ってますよ。
毎年たんぽぽの綿毛が見られると、行われるんです。
俺:
どういったものなんですか?。
じ:
まあ、なんですな。
人生の教訓を学ぶための行事とでもいいますか。
何か神事などとは違う気もしてきたが、とりあえずお願いしてみた。
俺:
それって今、見せてもらえます。
じ:
いいっすよ。
じいさんが綿毛を捜しに行っている間、綿毛が庭にたくさん落ちているのを見つけた。
ここで「綿毛のはふり」をやっているのだろうか。
じ:
戻りました。
俺:
ではさっそくお願いします。
と、突然じいさいがたんぽぽの綿毛を口の中に入れた。
あの、丸い形状を壊さないようにか、大口を開けて。
あっけに取られている俺の前で、爺さんはボールか何かをほおばったような顔で、たんぽぽの茎だけを出していた。
して、これからどうなるのかと見ている俺に向かって、大声で叫んだ。
「ふぃふぃほ!!」
たくさんの綿毛がじいさんの口から放たれ、いくつか俺の顔に当たった。
明らかに口の中の部品を総動員して「あとかたづけ」をし出したじいさんに「え、これでおわりですか?」。
じ:
そう。これが「はふり」じゃよ。
突然「じゃよ」語を使い出したことが気になりつつも、その意味を聞いてみた。
あらましはこうだ。
飛んでいく綿毛もあるが、唾液に犯され飛んでいけない綿毛もある。
そんななかでも、お前はがんばっていけ。
そんなことを表現しているそうだ。
さっきの「ふぃふぃほ!!」は「生きろ!!」だったらしい。
帰る時、じいさんは本をくれた。
自費出版だったらしい。
俺は自費出版の本でも図書館にあるんだなと感心しながら、東京に戻った。
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今年もたんぽぽの季節になった。
もうそろそろやるのだろうか、「綿毛のはふり」。
今回で8回目になるその行事のために、じいさんは練習を欠かさないはずだ。