「コーヒーをどうぞ」
「で、三枝(さえぐさ)先生は、どのようにお考えで?」
「確かに昔より、悪いイメージもないですしね」
「離婚の原因としては、どのようなものがあるんでしょう」
「実に多種多様です。性格が合わないとか、不倫とか」
「ええ」
「しかし面白いことに、どんな離婚のケースであれ、あるひとつのキーワードが聞かれるのです」
「というと?」
「このキーワードを聞かなかったケースは、ありません。もちろんみなさん意識されていないでしょうけど、離婚のことで言いたい、何かを表すのに、どうしても使うのです」
「それは」
「おてつき、です」
「おてつき、ですか」
「別に、結婚に早まったことを言っているのではないのです。ただ、何か分からないけど、おてつきをしてしまった、こうおっしゃるんです」
「いやですね、離婚の原因が「おてつき」って」
「そうですね」
「そういや貴女はご結婚されているんですか」
「いいえ」
「なんですか、お綺麗なのに。あ、もう時間ですので、失礼いたします」
その若い記者を見送ったあと、ほとんど残されたコーヒーを見て三枝はため息をつくのであった。
「またおてつきだよ」