天岩戸 その2

昨日からの続きです。
【あらすじ】
「身体を拭くとき、タオルを生きているかのように動かす小学生」の調査中。
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今回の件の依頼者は言った。
「その小学生が体を拭いているとき、まるで天女のようであるらしいのです。でも、そのことを他の人に言っても、信じてもらえないのです。」
「どうかその小学生を見つけだし、私が嘘をついていないことを証明してください。」
昨日来た、その小学生を知っているという内容のメール。
さっそく俺はそのメールを送信してくれた男の子に会うため、徳島県に向かった。
その「いかにも小学2年生です」といった風貌のたかし君は、俺に人見知りもせず、にこやかに詳細を話しはじめた。
「で、体を拭くときにタオルが生きているっていうのは、どういうことなんだい?」
たかし「そのままだよ。プールの時間が終わった後、着替え室で体を拭くんだ。みんなもタオルは上手だけど、その子だけは、ちょっと違うんだよ。」
「ちょっと待って。タオルが上手だっていうのは、どういうこと?」
たかし「この辺だと、体を上手に拭くことを、タオルがうまいって言うんだ」
「タオルが下手な人ってのは、あまりいなさそうだけどね」
たかし「そうでもないよ。背骨に沿った部分なんて、よく拭き残すでしょ」
「いろいろ難しいんだね、地方って。」
たかし「とにかく、その子は他の子のタオルさばきとは違うんだよ」
「たとえば?」
たかし「うーん。なんだかタオルと踊っているみたい」
ここまでくれば、普通はそのさまを確認して依頼者の報告ですむのだが、その確認が難航する。
「探偵がプールの着替えを見せてくれと言ってきた」
こういうこと。
学校側の許可が得られないまま、というか、そりゃ得られないよねというのを体現したかのごとく、こうして俺は着替え室の掃除用具入れに身を潜めている。
その外では、プールの授業を終えた小学生たちが、今まさに体を拭きはじめていた。
換気のためか、用具入れ上部に薄くあけられた穴から周囲を観察する。
しかし、タオルと踊るような小学生は確認できない。
新たに入ってくる子もいなくなり、依頼内容とたかしの話を過大にとらえすぎていたかと反省しそうになったとき、俺の、すなわち用具入れのすぐ前が騒がしくなってきた。
「ほら、あっちゃんの舞が始まったよ」
その声とともに、着替え中、もしくは着替え終わった小学生たちがわっと用具入れの前に集まりだした。
どうやらターゲットが用具入れの目の前にいるらしく、しかもタオル生き中らしいのだ。
だがなんとしたことか。
そこはちょうど俺から死角となっている場所で、どうにも見えない。
俺は考えた。
このシチュエーションは、俺変質者で満場一致だ。
でも、ここでもし小学生たちに見つかったとしても、何とか言い逃れて退散することができるんじゃないだろうか。
用具入れをそっと開けつつ、タオルが生きていることを確認
そのときもし見つかってしまったとしたら、「あ、まちがえちゃったー」と言いながら部屋を出る。
これでいこう。
考えが浅かった。
息を潜めたままでいるべきだった。
俺は忘れていた、担任というものを。
目の前の子を見ようと用具入れを開けたとき、用具入れ横にいた担任と目が合ってしまった。
しかも、だ。
その担任は、知った顔。
この案件の依頼者だった。
その担任は俺を見て少し驚いたようすだったけど、すぐににっこりと笑って、ポケットから携帯電話を取り出した。

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