「2階からしか家に入れないようにしてください」
ここはリフォーム番組に取り上げられるような家を提供するリフォーム会社「わらぶき」。
その仕事のほとんどは、家のリフォームではなく、今みたいな素人の相談に費やされることになるんだ。
「奥さん。近頃は2階からしか入れないような家なんて結構ありますよ。雪が多い地方のこともありますし」
相談者にしてみれば突飛だと思われる発想も、プロから見たらそんなに不思議じゃないことが多い。
2階からしか入れないくらいじゃ、リフォーム番組は取り上げてくれないのだ。
どうにかして説得するんだ。
ああそう。
相談と言えば、こういった方面のものもある。
「うち、居間の真ん中に階段があるんですけど、これってリフォーム番組に取り上げてもらえるでしょうか」
その番組に問い合わせてくれよと言いたくなる相談じゃないか。
でも、この手の相談は多い。
そんなこと聞かれても「うーんどうですかね」と曖昧に答えるしかないね。
でも確か、曖昧に答えなかった相談もあったな。
「うち、換気口からしか出入りできないんですが」
すぐに答えたね。
「そこはとりあえず建築業者に問い合わせてみましょうよ」って。
続いて外気、スーパーラット、イーサン・ハントとかの単語を連呼したね。
「あなたは外気、スーパーラット、イーサン・ハント、外気、スーパーラット、外気、外気、イーサン・ハントのどれかなんですか!?」
少し多めに言ってやったさ。
とにかく、リフォーム番組に取り上げてもらうにはそう、住みにくさに故意が入っていたらだめだね。
そこがわかって初めて、「リフォーム番組に取り上げてもらえるような家を考える」意味が出てくるんだ。
まあ酔狂な会社だね。
ところで、うちの会社の建築構造。
いたって普通の作りなんだ。
もちろん面白く作り替えたいところなんだけど、その業務内容を考えると、作りを替えるとき、どう転がっても故意が発生しちゃうんだ。
だから、ずっと普通のまま。
それだけが、僕らの心の中に引っかかるのさ。