俺は催眠術師。
心の病を癒すため、人を催眠状態にするのが仕事だ。
でも、なってから3日目。
まだ術をかけたことがない。
不安だ。
「催眠術?。私にかかるかな。」
相手は60代男性。
催眠術という言葉への「怪しげ」固定概念が見られる年齢だ。
それは催眠状態になることを、無意識に妨げようとする気を持っていることを意味する。
難しい相手だ。
「ともかく。先生お願いします。」
とりあえず、作業に取り掛かる。
まず最初に、催眠状態にどれほどかかりやすいのかを調べる。
では、ゆっくり深呼吸してください。
「ふぅー。」
次に、リラックスしてください。
「リラックスしろって、言われてもねぇ・・・。」
目も閉じない相手に、俺はもう泣きそうだったが、続けた。
いいですから、とりあえず目くらいは、閉じてください。
「わかったよ、先生。」
では、次に空を飛んでいる自分をイメージしてください。
「難しいな。」
いいですから。
ほら、ゆっくり体が浮いてきましたよ。
「浮いてなんかいないよ。」
体がすぅーっと上がっていきますよ。
ほら、何が見えますか?。
「えーと。副都心ですね。ビル群が見えます。ずいぶん遠い。高度は、30mといったところです。あ、下を向くと、下降できるんだ。先生、ちょっとビル群に近づいてみます。大丈夫です。人目に付かないように、ちょっと高度を上げますから・・・。あれ、わ、やべ、ちょっと上空って思ったよりも寒いですよ。ちょっと、とりあえずあのビルに降ります。いいですか?。降ります。」
・・・
「体がすぅーっと上がっていくなんて、想像できませんよ。先生。」
俺は、すごく自信がついた。