不快色と刹那

歩道の草むらにスズメガの幼虫がいた。
たくさんいた。
イネ科らしきその植物の葉が、ぴょーんと歩道にはみ出ていて、そこに「たいがい」いた。
僕は結構幼虫には詳しくて、しかし触れないのだが、一目で「スズメガの終齢幼虫だと思った。
スズメガの幼虫特有の「しっぽみたいなもの」が見えた。
そして大きい。
大人の人差し指くらい。
ほら、この表現だけで自分の手が気持ち悪く感じる。
もう、滅入るほどでかかった。
そして色。
黒と黄色の何とも言えない配色。
いわゆる「警戒色」だろう。
確かに「黒と黄色」のコンビネーションはリゲイン効果だけでなく、工事中を示す標識や立ち入り禁止テープ、踏切バーなどの「警告」を示すものとして知られている。
たぶんこれらは今日見たスズメガから拝借したものなのだろう。
それにしても歩道。
少し足を踏み外せば入ってしまう草むらにその配色の幼虫が、指くらいの幼虫がいるのである。
不快である。
何かの本で、ゴキブリは害虫であるという記載があった。
その理由は「不快」。
カメムシが果樹園にダメージを与える害虫であるように、イナゴが稲を食い荒らす害虫であるように、ゴキブリは不快な害虫である。
もちろん、ゴキブリが不潔な場所から出てきて、遅く帰ってくるお父さんの夕食にたかるとき、不快もさることながら有害な細菌を付着させるかも、という点で不快という理由以上の勲章を得た害虫に昇格できる。
しかしただ「不快」という理由で害虫というのもなあ、という気がしたのだ、その本を読んだときは。
しかし、あえて僕はスズメガの幼虫を「不快」と表現した。
スズメガの成虫、すなわち蛾なわけだが、これは実は、結構かわいい。
すずめの名を持っているくらい、大きいのだが、普通の蛾のようないやらしいぺらぺら感はなく、ぽっちゃり。
いきなり服に留まってきたりするとさすがにビビるが、遠目で見る分には「ふかふかしていてかわいい」のである。
しかし幼虫は「不快」。
それは、たくさんいたことでも配色でも大きさでもなく、 僕がなぜか「何かの拍子で靴の中に幼虫が飛び込んできたらどうしよう」とふと思ってしまったからだ。
一回思ってしまったらもうだめだった。
一体どんな「拍子」が発生すれば、スズメガの幼虫が靴の中に入るのか。
幼虫というものはそんなにアクティブじゃない。
その「拍子」、おそらく一生涯ない。
でも思ってしまった。
思ってしまったら、夕方の歩道を歩いているのが怖くなってしまった。
こうして僕は、スズメガの幼虫がついている手を羽に変え、歩くのが怖くなったので徒歩を捨て、空を飛ぶようになったのです。

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