なぜか台北 その36

【あらすじ】
台湾旅行。
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アイスを食っている店員さんのコンビニからファンタきどりを購入した僕は、それを片手にさらに歩いていく。
暑いのだが、気分的には一駅分を歩いていき、途中の田んぼやよくわからないものを見ていく所存である。
ところがコンビニを出てすぐのところは高架を形成しており、そのくぐる方には歩道がない。
くぐる方を選んだ場合、僕が反射板を背負ってでもいれば歩けたのだろうが、そうでない今では事故ってしまう。
そして事故るとめんどうくさいうえ、パスポートの期限が切れたりしてさらにめんどうくさい。
そして命の保証。
以上を踏まえ、僕はくぐらない方を選んだ。
と、ここでくぐるだのくぐらないだのをどうこう言っていることには理由がある。
普通はくぐらない方を行きました、でいいのに。
その理由は「くぐらない方」の、妙な気味悪さである。
日差しは強く、目に入る風景全てが、少し白色を多めに入れた配色を示している状態なのにも関わらず、その「くぐらない方」のちょっとしたトンネル。
数mしかないそのトンネルが妙に暗い。
暗いだけならいいのだが、さらに謎のソファーが置いてある。
ソファーが朽ちている。
そのさまが気味悪い。
ここで台湾の不良にカツアゲでもされたらどうしよう。
そんなことを考えさせる禍々しさなのである。
僕は足早にそこを攻略する。
ぼろぼろのソファーがとにかく気持ち悪い。
早くトンネル出口の白色に飛び込みたい気分にすらなる。
当たり前だが特に何も起こらないまま元の風景に飛び込む。
数秒目が効かなくなるが、日差しの強さが心地よい。
目が少しずつ慣れてくると、それまで道の真ん中で子猫と戯れてのんびりしていただろう老夫婦が、僕の事を怪訝な顔をして見ている。
僕の帽子のせいだろうか。
この帽子は寝癖が直るから非常に助かるんだよと言いたくなる。
いや、どこからか漂う僕の異国民の雰囲気のせいだろうか。
確かにここにはあまり観光客が来ないかも知れないが、特に悪さをしにきた訳ではないんだよと言いたくなる。
まさか、あの禍々しいトンネルを抜けてきたのかとでも思っているのだろうか。
すごいでしょ?、と言いたくなる。

なぜか台北 その35

【あらすじ】
台湾旅行。
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「北竹」駅は簡素ではあるがちゃんとした駅があり、改札を抜けるとまさに駅前といった感じで細かく建物、店が並んでいる。
駅を出てまっすぐ歩いていくと十字路があり、左右を眺めてみると企業所有のビルもあるようだ。
しかし所々に古い感じの家があるため、一概に「いやあ何もかんも都市だね」とは言えない。
そんなところである。
お腹が減っていた僕は何か食おうと、3時間ほど前の台北から思っていたのだが、なぜだろうか。
お店のほとんどはまだ開いておらず、たまたま開いていても準備中らしい。
休日だからだろうか。
ともかく食べ物が全ておいしそうな台湾において、まさかの朝食難民となってしまった僕は、それでも適当に決めた方向へ歩いていく事にする。
町並みには「これ、台湾っぽい」という感じの建物はなく、ともかく日本のどこかローカル線駅の雰囲気。
では「これ、台湾っぽい」建物とはどういうものなのかは僕の中にもないが、ともかく変哲の無い風景である。
駅前の十字路を左に曲がって、どんどん進む。
暑い。
しかしお店が、コンビニもない。
しかし交通量は多く、車とバイクが風を作る。
それをだらだら歩きながらも、ひとつ気づいた事があった。
歩道というか、歩行者専用の領域が、僕の歩いている道にないみたいなのだ。
僕は当然道の端を歩くのだが、そもそもそこと自動車の走る領域のへだたりには白線ひとつ存在せず、前後の自動車事情を確認してから僕は行動する、というシーンばかりなのだ。
まあそんなものかねと歩いていくと、コンビニを見つけた。
これ幸いと飛びつく。
店内はすこぶる涼しく、僕は何か食べ物をと思った。
しかし、ここであまりにご当地っぽくないお菓子なぞを食べても、何か負けた気がする。
それくらいならここは我慢をして、ホテル周辺の屋台で食べるべきだ。
そう考え、僕は「ファンタを目指しました」という感じの飲料のみをレジに持っていく。
若い女性の店員さんは、なぜかアイスクリームを食べながら会計をしてくれる。
現在、北竹で一番良かったイベントは「コンビニの店員さんがアイスを食っている」である。

なぜか台北 その34

【あらすじ】
台湾旅行。
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「北竹」駅へ向かうために乗った電車内は特急電車「自強」とは異なる作りで、特に座席は日本の中央線のようなサイドにある座席と新幹線のような進行方向に対して向かって座れる、2パターンの座席が1両に交互に混じるような配置。
奇妙だ、と思う。
なぜこのような配置にしたのだろうか。
僕は開閉ドア最寄りの「中央線タイプ」の座席に陣取り、周りを観察する事にした。
先ほどの急行で通り過ぎた「北竹」のことを思い出すと、およそ5分くらいはこの電車と、運命と進行方向をともにする。
そう考えると、運命というと何か決定的な、厳かな雰囲気を出すものであるが、その実際はただの進行方向だけなのかもしれない。
そんなことをまず異国の電車の中でなんか考える余地なぞなく、さらにはドア付近の観察により、余地はマイナス値となった。
なんか、「open-close」的なスイッチがついているのである。
これは普通、駅到着時に開閉の手順があることを示していると考えてよい。
事実、僕はそう考えた。
操作方法がわからないのである。
台湾で日々、数多く開催されているという、地元住民の「電車降りるパフォーマンス」を見る機会があれば良いのだが、何せ僕の降りようとしている駅はおそらく次の駅。
ここで唐突に誰かが電車の降り方の説明を日本語でやり始めるということでも起きない限り、どうにもならない。
僕のつたない英語能力からすると、どうも「スイッチの上にあるレバーがONのときのみ、このスイッチ使って」と開閉スイッチの説明にあり、そのレバーは今、OFFだ。
しかしこの解釈が合っているかどうかは分からず、そうだとしても例えば次の駅から乗客側が「レバーをONにしてスイッチで降りる」などというイリーガルな方法を取るかも知れず、とにかく分からない。
確かに、「open-close」は良心的だ。
日本で時々見られる、「開、閉」の記載がなく「←→」「→←」のみのもの。
あれは結構、迷ってしまう。
どの矢印の動きが、開閉を示しているのだろうかと。
電車が制動しはじめ、意味の分からない車内放送が流れる。
「北竹駅」が近いのだろう。
運良く、この車両では僕の他に降りる乗客がおり、自信満々に彼の後ろに並ぶ。
結局、乗車してからの5分間全てをつぎ込んだ「open-close」的なスイッチは使われる事なく、「あつっ」と手を引っ込めたくなるような暑さのホームへ僕は降りる事ができた。
「北竹駅」に到着である。

なぜか台北 その33

【あらすじ】
台湾旅行。
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望まずしてたどり着いた、台北から2時間くらい離れたところにある都市「新竹」。
しかしそれまでの車窓からの風景はなかなかよく、この場合の「よい」とは日本では見られないような建物があったりだとか大学があったりだとか、田んぼがあったりだとか。
何となく琴線に触れるものということである。
若者とおばさんと日差しでごったがえす新竹駅。
料理中のようだ。
料理中の場所は放っておき、なんか「のどか」くさかった台北方面近隣の駅「北竹」に向かう事にした。
さきほどは特急的な「自強」というチケットを買ってしまったためにこんなところに来てしまった。
券売機でちゃんとローカルを選び、少々雑な改札をくぐる。
新竹駅はホームが3つほどあり、それぞれに電車が止まっている。
当たり前のようにローカル線がどれかは分からないが、自強の電車だけは見覚えがある。
しかしそれを除いたとしても2線ほど。
どちらか分からない上に時刻表は「特急のみ」「ローカル線のみ」で分かれているらしく、まんまと特急側を鵜呑みにした僕は20分ほどホームアローンになってしまう。
な、ホームアローン、な?。
ホームで、あれだから、な?。
わかるよ、な?。
今回も特に面白いところがないため念を押してみたのだが、どうだろう。
効果はあっただろうか。
仕方がないので不機嫌そうな駅員をつかまえ、ローカル線を教えてもらう。
なんてことはない。
先ほどの改札から入ったところ、その正面がそれだった。
突然、聞き慣れた音楽が流れてきた。
なぜかは分からないが、電車到着時の音楽が日本でよく聞くもの。
こんな異国でも使われているというのは、何かサピエンスの到着本能に訴えるリズム、音域なのだろうか。
しかしこの1日ほど懐かしい音に対し、情緒みたいなものは感じなかった。
なにせ今回も、面白いところがないと言い切っちゃっているくらいですから。
ともかく、何もなさそうな町「北竹」へ。

なぜか台北 その32

【あらすじ】
台湾旅行。
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もう自強の列車に乗って2時間は経過しただろうか。
謎の車内放送が流れ、乗客の数人が慌ただしく支度を始めた。
停車駅「新竹」が近いのだ。
やっとこさ下車できるとうれしくなったのも束の間、車内で精算した切符が本当に使用できるのか。
改札を通過できるのかが妙に不安になってきた。
車掌さんを疑っている訳ではないが、例えば改札でまたひと問答。
いわば2時間弱乗り過ごしてきた僕にとって、そのやりとりは致命に等しい。
と、ここでブログ的にはファンタジーが起こってもらいたいところではあるのだが、緊張の改札は何事もなく進み、どうにか外に出る事ができた。
ただ、暑い。
「新竹」は台北駅から自強の列車で2時間程度のところにある都市で、少なくとも11時の駅前は大混雑である。
何か名所があるのかも知れない。
若者だけでなく、おばさんも多い。
目的地の樹林から2時間。
しかしその町並みは「樹林から想像される自然、田んぼ」とは違い、それを望んでいた僕はいまいち乗り気にはなれない。
名所があるのだとしても、ここからさらに単独で行動したら、もう戻れないだろう。
新竹にも、日本にも。
僕は電車の中で、新竹の前の駅が質素で線路に沿う道は田んぼで囲まれていた事を見ていた。
この新竹でただうろつくよりは、前駅へ戻り田んぼの方向へ歩いてみた方がいいのではないだろうか。
そう考えた僕は、せっかく意図せず新竹についたというのにひとつの何かを見る事なく、券売機に並んだのである。
券売機には、今回の体験で特急らしいことが判明した「自強」にならんでいくつかボタンがあり、そのひとつには「local」と添えられている。
ははーん、なるほどね。

なぜか台北 その31

【あらすじ】
台湾旅行。
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自強の列車に乗って1時間30分くらいか。
当初の目的地だった「樹林駅」はだいたい1時間20分前くらいに通過したのを最後、その姿を見せていない。
まあいい。
どうせ目的地は「なんとなく親しみのある、自然あるっぽい」くらいで決めた事なのだ。
確か、通過したときに見た「樹林」はいたって普通の都市部で、結果的にはあまり面白くなさそう。
通過した方がよかったくらいなのだ。
なんて思っていたら、自強最大の事件が起きた。
車掌さんが切符を切りにきたのだ。
これは本格的な「特急電車」。
1時間半、ぶっちぎりで運行しているのだから距離もある。
新幹線にホーム入場券で乗ってしまったようなもののかも知れない。
にわかに挙動がおかしくなってくる僕を察し、隣の人が心配そうだ。
しかし仕方がない。
怖そうな車掌に切符を渡し、ジャパニーズであることを告げたのち足らないだろうから払うよと片言。
車掌は何か僕に話すが英語ではなく、何を言っているのかよくわからない。
ごめん分からん。
そんなやり取りが数秒続いた後、どうも次の駅までのやつを買うかどうかを聞いている事がわかった。
もちろんそうする。
次がどこかはわからないが。
車掌は半分あきれてはいたが「シエシエ」と僕に修正したらしい切符を渡してくれる。
およそ600円の請求。
出発地点の松山駅から「次の駅」、新竹は「自強」で600円だったのだろうか。
「樹林」までの切符を買ったときの数倍である。
これが妥当なのかどうかは今でも分からないが、とにかく車掌さんは怖かった。
というか、駅員さんは基本的に無愛想で怖かった。
どうにか無賃乗車的なくだりをやり終え、心なしか隣の人も安心した表情になった。
そして僕も最大の試練を乗り越えたことで、何か人間的に成長できた。
次は、自強に乗るとき気をつけよう。

なぜか台北 その30

【あらすじ】
台湾旅行。
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♪いくつの街を 越えてゆくのだろう
アニメ、ドラゴンクエストで流れていた徳永英明の名曲である。
一向に停車の意志を示さぬ自強の列車にて思い出した。
もうほんと、停まらない。
これは粒子加速の実験かなにか?。
とにかく駅という駅を無視していき、列車は新しい世界へ行こうとでもしているようだ。
これは戻るのにも大変だねとため息をついたあたりで、車内販売の人がやってきた。
車内販売。
これ、特急的な電車なんじゃね。
と気づくにしても、もうどうする事もできず、車内販売の人も歩行速度プラス列車の速度の速さで、次へ行ってしまった。
外を眺めていると、面白いものが目に入ってきた。
草に覆われた小高い丘の中、小さい家がいくつも立っている。
小さいとはいえ、それは日本の道通神社にあるようなものではなく、ちょうど人が一人、入れるくらい。
家というよりは屋根のついた壁といった感じで、もちろん住むためのものではなさそう。
おそらくお墓なのだろう。
鮮やかに塗られた屋根が太陽に照らされ、草原の中で美しく光る。
失礼だが何だか不思議な感じだったので、行ってみたい気になる。
しかし列車は停まらない。
♪明日へと続く この道は
明日へと続くは困るのだ、明日へと続くのは。

なぜか台北 その29

【あらすじ】
台湾旅行。
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自強というものに属するらしい我が乗車列車は、下剤を飲んだかのように整然と進み、停車するそぶりすら見せぬ。
そもそも駅の間隔も広いらしく、やっと次の駅が見えたと思ったらそのときはもちろん減速しておらず、もはや停車は夢のまた夢といった面持ち。い
不安もどこかへ置き去りになってしまい、僕は世界の車窓の窓枠にひじをついて、ただ風景を眺めるだけの備品になってしまった。
備品なりに外を観察していると、色々分かってきた。
駅周辺は結構栄えているようなところでも、その駅間は広大な田んぼが広がり、川が堂々と流れる。
緑色が支配する。
そんなパターンだ。
駅近くになると、ぱっと風景は建物の灰色が占める。
駅前には大きな看板があり、ある駅のそれはウォシュレットに向かっておじいさんが手を合わせている絵。
どうしたのだろうか。
そんなターンを数回繰り返していく。
全然停まらない。
駅間の大半を占める緑ゾーンでは貯水池だろうか。
大小の水たまりが転々とあり、たいがいそこにはサギのような白くて細い鳥がひょいひょい歩いている。
大きな河川の両岸には広場があり、草野球をしている。
隣の人が徐にあくびをする。
あくびにも外国語はない。
停車しない以外は、のどかな土曜日である。

なぜか台北 その28

【あらすじ】
台湾旅行。
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とにかく「自強」というものらしい列車は長い地下運行を抜け、順調に「樹林」を通過した。
よくわからないが、とにかく目的地だった「樹林駅」を通過した、こいつは。
どういうことなのだろう。
2012年6月9日、午前8時4分。
自強電車先頭車両内に、主に僕に戦慄が走る。
落ち着いて整理してみる。
まず、僕は「樹林」までのキップしかかっていないから、だめである。
切符に書かれた「43元」では、この乗り物から降車できないばかりか、不正に乗車している状態だろう。
そして、この列車はどこで停まるのか、分からない。
事実、この時点ではまだ一駅にも停車していないのだ、こいつは。
しかもそんなテンパっている僕に、更なる衝撃が走る。
若い女性が僕の前に座っていたおじさんに何か話しかける。
するとおじさんはしぶしぶ。
少なくとも僕にはしぶしぶに見えたのだが、席をどいたのである。
この列車、座席指定の可能性浮上の瞬間である。
僕は焦りつつも前傾姿勢を保ち、誰かが声をかけてきたら満面の笑顔とともに颯爽と立ち去る準備を行った。
笑顔にも外国語はないだろう。
重要である。
そしてコトの整理。
えーとまず、樹林には停まらなかったぞ・・・。
とはいえ、整理する事はもうあまりないことに気づいた。
停まらぬのなら、もう仕方ないのである。
次に停まった駅で清算をすればよい。
清算を台湾でどうやるかは全く分からないが、清算という行為のことは知っている。
僕は不倫専門だったから、お手の物だ。
ごめんここ自暴自棄。
ただ、今考えた割には「不倫専門」というのは面白い。
「不倫専門で、結果何なんだ」
僕が今何か答えるとしたら、「不倫専門の熱海」とかになるだろうか。
とにかく僕はもうすっかり覚悟を決め、座席指定疑惑は残れど平然と座り続ける事にした。
そうして、僕はもうすっかりまわりと同じいろになってしまふのでした。

なぜか台北 その27

【あらすじ】
台湾旅行。
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「樹林行き」らしい列車はほどなくしてホームに侵入してきた。
日本のそれと比べて、多少ごつごつ感、ロボット感のする車体である。
入ってみると2つ一組の座席が進行方向を向くように、両側2列に配置。
ちょうど新幹線のような座席配置である。
極力最後尾に並んでいた僕は、前の人がどういう挙動をするかを観察する。
彼らは特に座席のことを調べるふうでもなく、各個自由に座っているようだ。
座席指定がないことを確認した僕は、世界の車窓を意識した訳ではないが、窓側に座る。
樹林までの短い間ではあるが、風景を見たろうかと思った訳だ。
前の座席には足置き場のような付属品がついている。
松山駅ではそれほど乗客はなく、自強の電車内は閑散としている。
前の座席で、おじさんが新聞を読んでいる。
斜め横では学生が友達と何か喋っている。
「チュカさんは、遠い親戚の結婚式に向かうそうです。おみやげを見せてくれました」
「学生のヤムさんは、休日を利用して友達と旅行に行くそうです。楽しそうですね」
世界の車窓風に言えば、こうなるだろうか。
「チュカさんは、この列車で心臓発作を起こした地縛霊です。新聞も読み飽きて久しいですね」
「学生のヤムさんは、休日を利用して耳の穴に何個フリスクが入るか試すそうです。SHARPENS YOU UPですね」
電車は10分程度松山駅ホームに停車したのち、それほど乗車を促す事なく唐突に発進し始める。
さてさて、目的地の「樹林」はどんなところかしら。