ちょっとそこまで。13

食べ過ぎで緩んだ気分とふくれた腹をもてあそんでいては、旅行の何たるかを冒涜しているような気持ちにもなってくるというものである。
温泉に行ってみることにした。
入り口の「時間によって男湯と女湯が入れ替わります」の札に何となく心躍らせながら更衣室に入ると、時間も遅いせいか。
人の姿はなく、着替えの衣類も2点ばかりしかなかった。
今でも、他人に裸体をさらすことがひける。
かといって大得意という人もいないだろうが、修学旅行じゃないんだ。
この気分はどうにかならないものかなあ。
なんてことを思いつつも、前を隠すことだけはせずに浴場へ。
予想に反して人はいないが、そのかわりでもないんだろうけど、なんか湯がぼこぼこしていた。
湧いている演出だろうか。
やや熱いが、入れないことはない。
その、赤く濁った湯船に肩までつかると、ありきたりだからとこらえようと思っていた「あー」というやつがつい口に出る。
「あー」だか「ふー」だか。
さっき、無理して大量の夕食を食べてからというものの、こんな調子だ。
言葉を成さない言葉ばかりだ。
「あー」も「ふー」も飽いて、「うぇんー」とかになってきたころ、よくわからない扉から全裸が出てきた。
忘れていた。
ここは「洞窟温泉」だった。
あーふー世代を脱却しようと、僕は彼に話しかけた。
その扉の先って、どうなってました?
「なんか、袋小路でしたよ」
全裸が袋って、なかなかセンスいいですね。
もちろんこれは言わなかったけど。
小路もなかなかですよ。
これは、思いもしなかったけど。

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