悲しい比喩

「もうだめかも知れない」
ずっと父親と連絡が取れていない。
山で行方知れずになってから3日が過ぎた。
激しい雨。
思うように捜索もさせてくれない。
そのとき。
私の携帯電話から聞きなれたメロディが流れた。
この音楽は父親の携帯からの着信のはずだ。
電話に出ると、雨音にかき消されないくらいの、父親の大きな声が聞こえた。
「心配かけてすまない。今見慣れた道に出た」
私は思わず叫んでいた。
「そのさき!!。そのさきを行けば、捜索隊の人と合流できるはずだよ」
電話口から父親以外の声が聞こえたとき。
さっきまでの不安が、削がれていくケバブの肉塊のように、小さくなっていった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です