嘘つき村民への回答

人生のオチ探しをすることも、もうできなくなる。
この目的に全てを捧げてきたのだが。
それをまっとうすることなく病の床に臥した。
私を待っているのは、ただ目の前の死だけである。
そんな私を献身的な看病してくれた妻の見守る中、そのときを迎えようとしていた。
と、妻が急に私の耳元で囁き始めた。
「あなた、まだ声が聞こえる?」
かろうじて頷く。
「じゃあ言うわ。私、実はあなたのことがずっと嫌いだったの」
「実は籍も入れていないのよ」
「だからあなた、私にとってはずっと、どこかの向井の見知らぬ文二だったのよ」
「あ、ごめんなさい。間違えたわ」
「あなた、私にとってはずっと、どこかの向井さん宅の見知らぬ文二さん?、だったのよ」
私は最後の力を振り絞り、どうにか発するべき言葉を口にすることができた。
「愛してる」

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