洗手 3

昨日からの続きです。
【あらすじ】
黒い油で手が汚れているのだが、洗う場所がない。
下北沢という町は、雑貨と寺山修司氏が大好きな人々の集まる町、と言っても過言ではないが、もちろんそれ以外の人が来ても、うろうろできる。
しかし、手の汚れている人は、来てはならない。
まず、何も手に取れない。
ところせましと店が並び、魅力的な、なんだか用途のわからないものが売られているが、それを手に取ってしまうと黒い油で汚れるので、触れない。
じっくり選別することが許されないのである。
確か、気になっていためがね屋があった。
でも、ざんねんなことに、手が汚れているのだった。
めがねのふちを汚してしまう。
財布がほしいと思ってから、かれこれ3ヶ月くらいたつ。
でも、ざんねんなことに、手が汚れているのだった。
新品の財布が使用感たっぷりになってしまう。
なんだかお腹がすいてきた。
でも、ざんねんなことに、手が汚れているのだった。
ナイフや箸の美しい光沢を損ねてしまう。
ずいぶん前から、一辺50cmくらいの、木でできた正方形に近い、足が角ばった、学校の木工室にありそうな机を探していた。
でも、ざんねんなことに、そんなものはなかった。
ここで買えたとしても、どう持って帰るかで途方にくれてしまう。
このように、手が汚れていると下北沢のウリのひとつ「雑貨」が楽しめなくなってしまう。
あ、あそこに、寺山修司氏が歩いている!!。
・・・なんだ、ポスターか。
無意識のうちに、歩いている人とポスターを融合させてしまったようだ。
彼はずいぶん前、けっこう若いときに亡くなっている。
もし彼が生きていて、なぜか下北沢を歩いていて、なぜか僕と互いに「寺」「7」と呼びあう仲だとしても。
今の僕は手が汚れているので握手とかできないし、そもそもやっぱり近寄れないだろう。
このように、手が汚れていると下北沢のウリのひとつ「寺山修司氏関連」が楽しめなくなってしまう。
このように、下北沢で楽しめなくなった僕。
それを助けてくれたのは駅前のスーパー「ピーコック」だった。
そこのトイレには洗浄液とアルコールが置いてあったのだ。
そこで、無我夢中で手を洗った。
手を洗うときに、後ろの人を長く待たせることなんて、そうはない。
すばらしい爽快感と、洗浄液の芳香。
ありがとう、ピーコック!!。
ありがとう、洗浄液!!。
こうして僕の中では、下北沢は「雑貨とピーコックと寺山修司氏の町」となったのです。
「ピーコック2位で、寺山修司が3位かよ!!」と思われる方がいらっしゃるかもしれない。
だが僕は、本が読めない状態で、この町に出て来た。
ほんの。
ほんの少し、彼の言葉を踏襲した気もするのである。

「洗手 3」への2件のフィードバック

  1. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    寺山修司は「書を捨てよ、町に出よう」でしたっけ?
    あら?「手を汚し、町に出よう」だったかしら?

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    忘れちゃダメです。
    本当は
    書を捨てよう(そうしようそうしよう!)
    町に出よう(そうしようそうしよう!)
    です。

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